360度評価の効果を最大限引き出す秘訣とは?
昨今360度評価を導入している企業が増えてきました。360度評価は日本の主流であった、上司が部下の人事評価を行う人事評価制度とは全くの別物です。また360度評価は上手く扱えば非常に効果的ですが、扱い方を間違えると組織への不利益を生む諸刃の剣です。
今回は360度評価を上手く活用するため、360度評価のメリット・デメリットや運用の流れ、注意点などを解説します。最後に事例も載せておりますので、参考にしてください。
目次[非表示]
- 1.360度評価の概要
- 2.360度評価のメリットとデメリット
- 3.360度評価を導入する流れ
- 4.360度評価の運用方法
- 5.360度評価の運用ポイント
- 6.360度評価の導入事例
- 7.記事まとめ
- 8.よくある質問
360度評価の概要
■360度評価とは?
360度評価(多面評価)とは、上司だけではなく、同僚、部下の複数名から、日々の職務行動を多面的(360度)に評価する評価方法のことです。
複数名によってつけられた評価を平均することで評価のばらつきを抑え、より客観的な結果を得ることができます。そのため評価に対する納得感を高めることに繋がります。
▼360度評価に関する記事はこちら
360度(多面評価)とは?実際の評価項目やメリットを紹介
■360度評価の目的は?
①納得感の高い人事評価
目的の1つは、納得感の高い人事評価を行うことです。基本的に企業では直属上司が評価を行います。ただ上司は複数名のマネジメントをしているケースが殆どのため、現場での状況を全て把握することは不可能に近いです。
そのため上司の感情的な好き嫌いで評価がされたり、業績のみで評価をしてしまうケースがあります。また評価者が上司のみの場合、上司の顔色ばかり伺い、部下を疎かにする人が出てきます。
上記のような状態を是正する上で360度評価は非常に有効です。360度評価を実施することで、「公平性」と「客観性」を確保し納得感の高い人事評価を行うことができます。
- 公平性の確保:業務を一緒に行っている人が評価をすることで公平性を確保する
- 客観性の確保:一人の意見ではなく複数名の意見を参考にすることで客観性を確保する
▼【人事評価制度】に関する記事はこちら
人事評価制度とは?種類や特徴、設計上の注意点まで
②人材育成
もう1つの目的は、社員の人材育成です。自分が上司や同僚、部下からどのように映っているのか分かることで、自己課題を認識するきっかけになります。そのため、人材育成のために360度評価を活用する企業も多いです。
■なぜ360度評価が重要になってきたか?
背景①雇用形態・給料形態の変化
日本では終身雇用や年功序列制度が限界を迎えつつあります。終身雇用や年功序列の場合、全員を一律で評価すれば良いため、評価難易度が極めて低いです。
ただ現在多くの企業が成果主義を導入し、メリハリのある評価を行おうとしています。メリハリのある評価を行うと、当然ながら評価が低い人・高い人が出てきます。そして企業には評価の説明責任が求められるため、評価難易度が一気に高くなります。
そのため、企業は従業員の評価に対する納得感を高めるため、360度評価といった手法を取り入れることが増えています。
背景②部下の行動把握の難易度向上
現在企業では人件費削減のため、管理職を減らしている傾向があります。そのため上司1人当たりの部下人数は増えています。一方で働き方改革やコロナによるリモートワークの推進などで、部下と直接コミュニケーションを取る時間は大幅に減少しています。
結果として部下の日々の行動を把握しづらくなり、上司だけで評価をすることが非常に難しくなっています。そのため、企業は適切な評価を行うため、360度評価といった手法を取り入れることが増えています。
360度評価のメリットとデメリット
■360度評価のメリット
①納得感の高い評価ができる
360度評価では、評価に対する納得感が醸成されます。 普段関わる事の少ない上司から、評価されると、「恣意的に評価されている」「あの上司は自分の努力を分かってくれていない」など、被評価者が結果を受け止められないケースがあります。
一方で、360度評価であれば普段共に仕事をしている周囲からの評価であり、客観性・公平性の高い結果を得ることができ、被評価者も結果を納得感高く受け止めることができます。
②自身の強み・弱みを客観的に把握できる
360度評価では、多面的に評価を得ることによって、自己認知とのギャップを理解することができ、これまで気づくことができていなかった自身の強みや弱みを認識するきっかけにもなります。
専門的にいうとジョハリの窓でいう「盲点の窓」や「秘密の窓」を認識することに繋がるという形です。
また、評価をした側も評価をされた側も評価項目について目線合わせができているため、共通の基準に対して改善できているかどうかが明確になり、PDCAを回しやすくなるというメリットもあると言えます。
※ジョハリの窓
心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが、円滑なコミュニケーションを進めるために「対人関係における気づきのグラフモデル」として発表したもの
立命館大学スポーツ健康科学部ブログ あいコアの星「ジョハリの窓」
③改善に向けたコミュニケーションの活性化が期待できる
日々の業務の中で全てのメンバーとコミュニケーションを十分に取ることは難しいものです。「コミュニケーション=組織の血流」とも捉えられるように、社内コミュニケーションが不足しているとメンバー同士の雰囲気だけでなく、情報連携や生産性へも悪影響を及ぼす場合があります。
360度評価の実施後、面談を設けてフィードバックを行うことによって、上司と部下のコミュニケーションを促す効果もあります。
■360度評価のデメリットや注意点
①評価者と被評価者の関係性に悪影響が出る可能性がある
360度評価の内容は必ずしもポジティブな内容のものと言うわけではありあません。評価が低かったり、否定的な評価を受けたりすることで、評価者と被評価者との関係性が悪くなってしまう可能性もあります。
関係性への悪影響が懸念される場合は、評価を匿名性にしたり、人事部が評価者を指定するなどの対策をとることが推奨されます。
②評価者が正直に評価できない可能性がある
「気まずくなりかねないから、高めに評価をしよう」「低い評価をしたのが自分だとバレたくないから、無難に評価しよう」など、評価者が適切な評価をできないケースがあります。
評価者が被評価者に対して遠慮をしてしまうと、360度評価の効果が薄れてしまうのです。360度評価を実施する際は、評価者へ事前に実施の目的や重要性を理解してもらうようにしましょう。
360度評価を導入する流れ
ステップ①:目的とルール、基準の明確化
360度評価を行う目的を明確化します。その後設問項目次第ですが、上司とは誰のことを指すのか?何段階で評価するのか?といったルールを決めます。最後に5段階評価の5とはどんな状態を指すかといったように、各段階の基準(状態)を明確化します。
ステップ②:測定項目の決定(カスタマイズの場合のみ)
どの項目を測定するかを決定します。定量評価or定性評価、満足度or期待度といったように様々な観点があります。
▼【定性評価】に関する記事はこちら
定性評価とは?定量評価との違いや評価方法と注意点について解説
ステップ③:回答者の決定
誰が誰に対して回答するかを決めます。この際、日頃の研修対象者の状況を知っている上司、メンバーが回答している方が本人にとっての納得感が高まりやすいです。また弊社で360度評価を行う際、お客様より頂くご質問の一例を共有させて頂きます。
Q:日頃から研修対象者と接点のある上司/メンバーが1名しかいないのですが、回答人数は1名になっても良いのでしょうか?
A:1名のみを選ぶことも、複数人設定することも可能ですが、それぞれ以下のようなメリットとデメリットが考えられます。本人と上司との信頼関係が問題ない場合は、正確性を重視して1名のみを推奨することが多いです。
●1名のみを選ぶ場合のメリット
本人の状況が明確になる(本人にとっての納得感が高まりやすい)
●1名のみを選ぶ場合のデメリット
誰がどのように数値をつけたかが分かる
●複数人設定する場合のメリット
誰がどのように数値をつけたかが分からない
●複数人設定する場合のデメリット
本人の状況が明確になりにくい(本人にとっての納得感が高まりにくい)
Q:研修対象者は組織図上の上司/メンバーと仕事をしていることが少ないのですが、どのように回答者を選べばいいですか?
A:研修対象者の状況が明確になる(本人にとっての納得感が高まる)ことを重視し、組織図上は別の所属でも、日頃から研修対象者と接点がある上司/メンバーを回答者に設定することを推奨しています。
その場合、研修対象者に回答者を公表できると望ましいです。(回答者が完全に不明だとサーベイに対する納得感が高まりにくいため)
Q:研修対象者にとっての先輩(OJTトレーナーやメンター等も含む)にあたる人は、上司版/メンバー版のどちらに回答すべきですか?
A:基本的にメンバー版での回答を推奨しています。以下の区分を参考にしてください。
- 上司版 →研修対象者の評価者にあたる人
- メンバー版 →それ以外の同僚(先輩、後輩全て含む)
Q:研修対象者の異動直後にサーベイを実施するのですが、前の所属組織、現所属組織のどちらから回答者を選定すべきですか?
A:基本的には現所属組織から回答者を選定するのが良い(今後研修対象者と共に業務を行なっていくため)ですが、現所属組織への所属期間が短すぎると研修対象者にとっての納得感が高まりにくいため、以下を目安に検討をお願いいたします。
- 異動から1~2ヶ月以内 →前の所属組織から回答者を選定
- それ以降 →現在の所属組織から回答者を選定
360度評価の運用方法
■サーベイ対象者、サーベイ回答者への説明
対象者が変な不信感や不安感を抱かないよう、対象者に説明を行います。説明のタイミングで回避すべきリスクや対策、特に注意すべき企業を整理しました。
リスク:各々の自己基準で評価をしてしまい、正確なデータが算出されない
対策:回答基準や回答方法まで明確化して説明する
特にこのリスクに注意すべき企業:人事評価でデータを活用する企業
リスク:部下が上司に低い評価を付けられず、実態と乖離のあるデータになる
対策:実施目的を説明したり、経営層といった最上位役職者から正直につけるように依頼する
特にこのリスクに注意すべき企業:トップダウン型の企業
■回答実施
回答者が回答します。回答時間は20分程度のものが多く、回答期間は1週間~2週間が一般的です。
■結果算出
回答を締め切り、結果を算出します。
■事前課題
事前にサーベイを読み解いて貰うなど事前課題を課す場合があります。ただいきなり結果を返してしまうと、「部下は何も分かってない」というように、結果を受け止めきれないケースもあるため、注意が必要です。
もしこのようなリスクがある場合は、研修で適切に結果を受け止めることができる状態を作ってから、結果を返す必要があります。この部分は非常に難しいため、専門家の意見や他社事例などを参考にするのが効果的です。
■研修実施
主目的が評価ではなく人材育成の場合は研修を実施することが一般的です。360度評価を返しただけで自己課題が明確になるほど甘いものではありませんので、内省の機会を設けることが大切です。
■フォロー
実はこのフォローが一番大切です。研修でいくら良い学びを得たとしても、現場での行動が変わらなければ意味がありません。
マイケル・ロンバルドとロバート・アイチンガーの研究によると、ビジネスにおいて人は70%を仕事上の経験から学び、20%を先輩・上司からの助言やフィードバック、10%を研修などのトレーニングから学ぶと言われています。
研修が無いと他の学びが促進されない事も多いため、研修も大切ですが、何よりも大切なのは現場での実践です。現場での実践に繋げるためのフォローをすることが大切です。
フォローの方法は様々ありますが、一例としてはアクションプランを設定して貰い、その達成度を上司や部下が週次でモニタリングするといった方法があります。
最適なフォロー施策は会社によって異なりますので、弊社では下記のような独自の技術を使って、各社様毎に最適な施策をご提案しています。
360度評価の運用ポイント
①評価の反映先を説明する
評価の不透明性が高まると人は不信感を持ちます。何のために評価をしているのか、評価結果がどこに反映されるのかを説明することが大切です。
360度評価の仕組みを丁寧に社員に説明しましょう。人材育成に活用する場合は、「評価には活用しない」事を伝えると、変な忖度が入らないためお勧めです。
②フィードバックを行う
集まった360度評価の結果を必ず被評価者・評価者双方にフィードバックすることが非常に大切です。
被評価者に対してフィードバックを行わないと、部下や上司に対する不信感が増してしまう可能性が高いです。フィードバックを行う事で、自己認知と他者認知の違いや、強みや弱みの理解につながります。そのため360度評価を行った際は研修といった内省の場を用意することが大切です。
評価者に対してフィードバックを行わないと、何のために評価をしているのかわからなくなってしまい、次第に非協力的になったり無関心になったりする可能性があります。
一方で自分が届けたメッセージ(評価)によって実際に上司や部下が変わり、関係性が良くなれば、評価をする意味が実感でき、今後も協力的に取り組んでくれるでしょう。
被評家者は360度評価を見た後は、回答者に対して感謝と自身が受け取ったメッセージや、変える事などを共有することが大切です。
360度評価の導入事例
ここでは管理職向け360度評価を管理職育成に役立てられた、TIS株式会社様の事例をご紹介します。
■実施背景
新たな人事制度の導入によって新任管理職向けの研修もゼロベースから見直すことになり、新人事制度で定義している管理職に必要な能力要件に沿ったかたちの内容にしたいと考えていたご担当者様。
「組織運営力」の観点で、事前に研修に参加する新任管理職の部下に対して360度評価を実施しその評価を基に自身の職場運営やマネジメントを見直すことができる点でした。
サーベイによって顧客指向、意欲、目標達成、業務効率、人材育成、業務改善力といった要素を分析し、改善に向けた気づきを得られる内容が新たな管理職像の基盤をつくっていくためにはふさわしい研修だと感じ、ご発注いただきました。
■実施内容
リンクアンドモチベーションのカリキュラムをベースにTIS株式会社様オリジナルのカスタマイズを実施。全2開催の研修で、1回目の研修でサーベイを基にディスカッションを行い、アクションプラン(行動目標)を立て職場で実践します。
そして、その3か月後に2回目の研修を実施し、職場状態がどのように変わったかを分析・発表してもらうという内容です。実際にその結果を受講者にフィードバックすることで「定量的にチームの状態をフィードバックしてもらう機会があって良かった」という声が多く寄せられました。
アクションプランを立て3か月間の実践期間を設けることで、職場改善の効果を可視化。
『アクションプランの〝実践〞による職場変化と、〝意欲〞によってサーベイ結果に差が出る』『自分で実践した取り組みや、実践できなかったことがどんな結果を招いたのか』など、何がよくて何が悪かったのかがわかるので、そうした成果や悔しさを今後につなげられるようにしました。
■効果
6人ずつでのグループワークで自らがマネジメントするチームの問題点やその解決法を発表し合い、活発な議論が展開されました。
ほとんどの受講者が初顔合わせの状態だったったものの、グループコーディネーター(グループ内でのファシリテーター役)が入ることでうまくお互いの共通点を見つけ、話を円滑に進行しました。
同じ立場の人たちと「こうしたらうまくいったよ」とか「こういう考え方でメンバーと向き合っている」といった話ができたことで、他者の課題を自分の課題に置き換えやすい雰囲気を作ることができ、そうした点は受講者からも好評価でした。
研修の場で「今度、一緒に何か(仕事を)やってみようよ」と参加者同士が話しており、副次的効果として狙っていた〝横のつながり〞も生まれました。
1回目の研修を終えてアクションプランをしっかり実践した人は、2回目のサーベイで良い結果が出ており、「結果がついてきたことが目に見える数値でわかる」ことで結果がついてきているのか実感できない状態ではなく、この先に向けて「このまま頑張ろう」と、モチベーションをアップさせることもできました。
記事まとめ
本記事では「360度評価」について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?少しでも皆様のお役に立てていれば幸いです。最後に特にお伝えしたかったメッセージを各パート毎にまとめました。
・360度評価の概要
→360度評価とは今の時代に求められる新しい評価手法であり、評価だけでなく人材育成にも効果的である。
・360度評価のメリットとデメリット
→360度評価は上手く扱えば非常に効果的だが、扱い方を間違えると組織への不利益を生む諸刃の剣である、細心の注意を払って運用することが大切である。
・360度評価を導入する流れ
→評価者や批評価社の混乱や不信感を招かないようにすることが大切である。
・360度評価の運用方法
→ただ導入するだけでは意味がない。効果ができるように適切にフォローすることが大切である。
・360度評価の運用ポイント
→①評価の反映先を説明すること②フィードバックを行うことが大切である。
・360度評価の導入事例
→他社事例も参考にしながら自社にとって最適な形を模索することが大切である。
よくある質問
360度評価とは?
360度評価(多面評価)とは、上司だけではなく、同僚、部下の複数名から、日々の職務行動を多面的(360度)に評価する評価方法のことです。
360度評価のメリットとデメリット
360度評価のメリット・デメリットは以下のものがあります。
■メリット①:納得感の高い評価ができる
■メリット②:自身の強み・弱みを客観的に把握できる
■メリット③:改善に向けたコミュニケーションの活性化が期待できる
■デメリット①:評価者と被評価者の関係性に悪影響が出る可能性がある
■デメリット②:評価者が正直に評価できない可能性がある
360度評価の運用ポイントは?
360度評価の運用ポイントは以下のようなものがあります。
■評価の反映先を説明する
■フィードバックを行う