事業内容 |
IP(キャラクターなどの知的財産)を軸にした、ネットワークコンテンツ事業、家庭用ゲーム事業、ライフエンターテインメント事業 など |
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企業規模 | 単体 約700名/HD連結 約18,600名 |
担当コンサルタント | 株式会社リンクアンドモチベーション 寺澤 陸潮 |
導入サービス | 人事制度改定コンサルティング マネジメント育成プロジェクト 新入社員育成プロジェクト 採用戦略改定プロジェクト |
事業領域を拡張し「世界企業」を目指せる組織・人材体制を構築していくこと。
管理職への期待を明確にし、個々の課題に合わせた成長機会を設けていくこと。
良いものをつくりたい、言わば職人気質の社員たちへキャリアや自己成長へ向けた意識もつけていくこと。
「世界企業」を目指していける組織・人材体制へと会社全体をアップデートしていくことができた。
広い視野で物事を考えられる社員が増え、新たな事業・サービスの芽となる企画が提案されるようになった。
多面評価サーベイの効果的な活用によって、マネジメント全体へ向けた課題意識の浸透と個々の課題に応じた解決に向けた支援ができた。
一人ひとりの社員が自分の成長やキャリアを意識できるようになり、30代前半で管理職になる社員が増えた。
「施策導入を決めた背景」
リンクアンドモチベーション 寺澤:組織変革や人材育成に着手された背景について、お伺いできますか?
バンダイナムコエンターテインメント 町田氏:当社は、2015年に「バンダイナムコゲームス」から「バンダイナムコエンターテインメント」へと社名を変更しています。それまではゲーム事業を主としていましたが、事業領域をゲームに限定せず、エンターテインメント全般と広く定義したうえで、新しい事業を生み出していこうと大きく舵を切ったタイミングでした。そうなると当然、「今の人材要件のままで良いのか?」という話にもなってきます。
そこで、「明確なテーマが設定されていなくても自分で考えて行動できる人材」というように、新しい人材要件を定義しました。それと同時に、選抜型の研修プログラム「アカデミア」をスタートしたのがこの時期でした。
寺澤:アカデミアについて、詳しくお伺いできますか?
町田氏:約700人の社員のなかから、将来のリーダー候補になりうる意欲の高い人材を10~20人ほど選抜して、1年間の研修をおこないました。対象としたのは、チーフやアシスタントマネジャーなど、管理職の一歩手前の階層で、年齢で言うと30~35歳くらいの社員です。当時、社員の平均年齢は42~43歳くらいでしたが、エンターテインメント事業に乗り出していくためには若い感性が不可欠であり、経営からも組織の若返りが求められていました。
肝入りのプログラムだったこともあり、アカデミアに参加した社員は大きく成長して、現在はほとんどがマネジャーやゼネラルマネジャー(GM)になっており、社内のキーパーソンとして活躍しています。成長の方向性がクリアになり、会社として期待する姿をよく理解できたことが大きかったのではないかと思います。一方、3期実施したアカデミアの参加人数は限られていましたので、社員全体の底上げという点では、まだまだ施策の余地がありました。
寺澤:社員全体の視点ではどのような課題があったのでしょうか?
町田氏:実は、アカデミアに取り組んでいた頃から、組織・人材に対する課題意識はかなり深まっていきました。その頃は業界全体が世界に向かっており、海外のコンテンツが日本でヒットすることもあればその逆もあり、チャンスもリスクも広がっているような状況でした。当社としても、国内では一定の存在感を発揮できるだろう自負はありましたが、世界においてはまだまだです。本気でグローバル企業を目指す場合、このままの社員の成長スピードで渡り合っていけるのだろうかという危機感はありました。
そのような環境下で社内全体を見渡したとき、同じ階層に滞留しているなど、個々の成長において停滞感がありました。語弊があるかもしれませんが「今のままでも楽しく働けている」という現状維持な雰囲気が否めず、世界で戦えるような存在になるという強い覚悟と成長意欲を持って働く社員は決して多くはありませんでした。
当社は、ゲームが好きで「おもしろいコンテンツを作りたい」というような言わば職人気質な社員も多いですが、一方で、自分自身の成長やキャリアに対する意識が希薄な一面もありました。昇進・昇格に興味がなく、自身がつくりたいものに携わるということにプライオリティを置いている社員が多かったと思います。
グローバル展開をはじめ、これからの会社のステップアップを実現していくためには、人事としてももっと社員の成長を引き出すような働きかけをしていかなければならないと思うようになりました。
「具体的な取り組み内容」
寺澤:社員の成長を引き出すためにどのような取り組みをされたのでしょうか?
町田氏:どうすれば一人ひとりの社員が自身の成長やキャリアを強く意識できるのだろうかということを議論して、出した答えが「成長ガイドライン」という成長の物差しを入れることでした。ある程度、成長やキャリアについて言語化・可視化しないと、普段から意識することはできないだろうと考え、ガイドラインをつくり、そこを基軸とした施策の展開をしていくこととしました。
成長ガイドラインは、「自律的成長」と「主体的選択」というキーワードを軸にした成長に関するガイドラインです。「自律的成長」という視点からは、期待する成長のスピード感、到達してほしい階層の基準を示し、その基準を超えられるように社員一人ひとりが考えていくことや上司がサポートをしていくことを促していきました。「主体的選択」という視点からは、マネジメントへ向けて成長していくことだけがキャリアのゴールではないという考えのもと、スペシャリストとしての活躍とマネジメントとしての活躍のどちらを目指すか選択できるようなコース設計にもしました。
伝達当初は上手くコンセプトを伝えきれず、社員の反発を受けることもあったのですが、経営層やマネジメント層と今後の会社の在り方や社員への期待を議論し続けていき、納得感を持って前に進んでいける内容へと磨き上げていきました。
寺澤:どのような点を磨き上げられたのでしょうか?
町田氏:そもそも、「なぜ成長ガイドラインを導入するのか?」という背景の伝達が不十分だったという反省から、第一に会社としての方向性を明確にしました。「我々は、国内の有力企業に甘んじるのではなく、世界に打って出て、グローバル市場でプレゼンスを発揮していくんだ」という大上段のメッセージを示し、そのためには一人ひとりの社員が成長スピードをもっと加速させる必要がある、という流れですね。この考えをしっかりと経営層の意志として固め、経営層一人ひとりがそれぞれの言葉で社員に伝えていったことが重要だったのではないかと思います。
寺澤:成長ガイドラインの導入以降には、どのような施策をおこなったのでしょうか。
町田氏:成長ガイドラインを効果的に機能させるために本腰を入れたのが、管理職の育成です。もちろん、一人ひとりの社員全員に働きかけることも重要ですが、一般社員の「親」はマネジャーでありGMなので、この階層の管理職強化に着手しました。
取り組んだ当時は、管理職自身が何をすべきか分かっていない状態でした。もちろん、いわゆる人材要件や階層定義などはありましたが、変化を求めていく状況の中で特に期待していく事は言語化できていませんでした。そこで言葉として出てきたのが「リーダーシップ」と「マネジメント」の二軸への期待というものでした。
当社で言うリーダーシップは、事業を推進していくうえでの課題を自ら発見し、自らの言葉で部下に語り、周囲を巻き込んでミッションをやりきるというような定義付けをしております。マネジメントは、しっかりと部下のことを見て、部下の特性を把握し、能力を最大限に発揮できる業務を与えるというイメージです。事業としての方向転換を牽引することも、社員の成長や中期的なキャリアについて考えることも求められる立場で、どちらかだけ出来れば良いというものでもなかったので、両面から活躍していく事への期待を改めて言語化していきました。
当時の管理職を振り返ると、リーダーシップを発揮できている人はいましたが、マネジメントは成長余地があるという印象でした。いずれにしても、この2軸を「できているのか?」「できていないのか?」「どの程度できているのか?」ということを管理職自身に認識させることが重要だと考えました。そこで、導入したのがリンクアンドモチベーションの多面評価サーベイです。
多面評価サーベイでは、定量的にも定性的にも、自分に足りないところや自分の課題が明らかになります。それを、上司からだけでなく部下の視点からも指摘されますので、管理職にとっては結構ずっしり来るものもありました。導入当初は正直、疲弊感もあったと思います。
寺澤:管理職の疲弊感を和らげるために、取り組んだことはありましたか?
町田氏:単に多面評価サーベイの結果を見ただけでは、自分のなかで消化していくのが難しい人もいるだろうということで、「ヨコ(横)シャワー」というやり方をご提案いただき、採り入れることにしました。
ヨコシャワーは、同じ階層の管理職同士でサーベイに向き合う取り組みです。もちろん、多面評価サーベイの結果は管理職が自ら受け止め、次のアクションにつなげていく必要がありますが、一人で改善するのは難しいケースもあります。そんなときにヨコシャワーは効果的です。同じ階層だからこそ共感できる課題や悩みがあるもので、横方向でアドバイスをし合うことで前に進むきっかけが得られることも多かったと感じています。
私自身もGMとして多面評価サーベイを受け、上から下からいろんなことを言われました。「これはしんどいな・・・」「どうしたらいいんだろう・・・」と思うことも多々ありましたが、リンクアンドモチベーションのサーベイでは「期待」と「満足」を切り分けて示していただき、「期待」をちゃんと理解できるようになっていることが奥深いと感じています。
また、ヨコシャワーを通じて他部署のGMから「僕も同じことを言われましたが、こうしようと思っているんです」といった話を聞くことができたのも大きかったです。このような横のコミュニケーションが安心材料になったり、ヒントになったり、刺激になったりしました。何より、多面評価サーベイが評価のためのものではなく成長につながるものと受け止められるようになったのは大きいと思いますね。
「取り組みの成果や手応え」
寺澤:様々な取り組みの結果として、社員のみなさまの変化や組織の変化をお伺いできますか?
町田氏:社員が自分の成長やキャリアを意識できるように、という意図で導入した成長ガイドラインでしたが、これは思っていた以上の効果がありました。成長やキャリアアップのことを特に考えていなかった社員たちが、「成長するために○○の仕事を担いたい」「キャリアアップへ向けて■■の部署で挑戦したい」「今のままでは、大きな役割が担えないのではないか?」と自ら考えるようになるくらい、一人ひとりの社員に強く意識付いたことは大きな変化だと感じています。
その結果、特に若手社員の成長が促され、抜擢できるようになりました。今までは、管理職になる年齢は30代後半くらいが平均でしたが、30代前半で登用される社員もかなり増えてきましたね。
寺澤:事業面で得られた成果などはありましたか?
町田氏:今までは、ゲーム事業が中心の会社でしたが、今は、たとえば「ライフエンターテインメント事業」として、Eコマースのサイトを立ち上げたり、新たなアプローチでのキャラクターIP創出に挑戦したり、ライブイベント映像をXR技術を用いながらリアルタイムで配信したりと、新しいサービスが生まれています。
また、ゲームやアニメの世界に入り込んだかのような演出ができる自社スタジオをつくったり、「島根スサノオマジック」というBリーグのチームの経営権を取得して、プロスポーツの分野でも新たなエンターテインメントに挑戦するなどしています。
このように、今までのゲーム事業とは違った新たな事業・サービスが、ここ数年で一気に加速しているような状況です。当社のIP(知的財産)も様々な形で世界に展開しており、2015年当時では考えられなかったようなことが今、続々と形になっています。
寺澤:他に社員の皆様の変化はありましたか。
町田氏:採用の変化も重要だったと思います。それまでは「当社に入りたい人から選ぶ」やり方でしたが、今は、「当社が欲しい人に入りたいと思ってもらう」という方針で採用活動を進めています。先の成長ガイドラインとともに改定した新たな人材要件にあわせてゼロベースで採用設計を見直し、学生に対するメッセージの届け方、選考方法や人材の見極め方などを構築してきたので、入社者の顔ぶれも変わってきています。
それまでは、当社の商品・サービスが好きな社員の集まりのようなところがありました。今もそういった社員も勿論いますし、とても大切な存在です。そこに加えて、「新しいことが出来る会社だから」「グローバルに勝負しようとしている会社だから」など様々な想いを持って入社する方が増えたことでこれまでにはなかった掛け合わせが生まれてきているように感じています。
「リンクアンドモチベーションに感じる価値」
寺澤:当社のサービスを選んでいただいた理由や、選んで良かったことなどをお伺いできますか?
町田氏:人材要件という人事制度の根幹になる思想をつくることから始まり、実際にそれを制度に落とし込み、社内に浸透させるための研修をおこない、さらに先ほど申し上げた多面評価サーベイや採用設計までと、上流から下流まで並走していただき、一貫してサポートしていただける点が、リンクアンドモチベーションのすごく大きな価値だと感じています。
また、リンクさんはお世辞抜きに当事者意識が高い方ばかりで、「同じ会社の仲間としてやってくれる感」は常々感じていました。
「今後解決していきたい課題」
寺澤:今後、特に注力していきたい点や当社に期待することなどをお伺いできますか?
町田氏:多面評価サーベイは今期で3年目になります。多面評価サーベイが、さらに管理職の「成長の武器」になるように、ぜひ一緒にブラッシュアップしていただければと思っています。
特に、現在当社は20代社員が4割を占めるほど若手社員が増えてきています。多様な価値観や背景を持つ若手が多い組織をいかにアップデートしていくか、現場の指揮をとる管理職の力がさらに問われる環境となりますので、今後とも管理職への支援は力を入れていきたいです。