組織風土(企業風土)とは?組織文化、社風との違い、改革のポイントを解説
昨今「組織風土」という言葉を頻繁に聞くようになりました。「組織風土」とは何を指し、企業経営にどのような影響を及ぼすのか…。
本記事では「組織風土」の内容理解から、その影響力、そして組織風土をつくっていく(改革していく)際のポイントを、事例もふまえて解説します。
目次[非表示]
組織風土(企業風土)とは
組織風土(企業風土)の意味と定義とは
「組織風土」とは「組織において共通認識となっている、独自的・固定的な価値観や規則など」を指します。組織に所属する人が、明確もしくは何となくにでも感じている、その組織としての価値観であり、従業員の考え方や行動、感情などに影響を及ぼしています。
「組織風土」は、一つの会社内に複数存在すると考えられ、「会社全体」「営業部」「人事部」「営業部のチーム」などの視点で分かれます。「会社全体」のことを指す場合には「企業風土」ということがあります。
組織文化、社風との違い
「組織文化」は、より「会社の仕組みや従業員の行動により具体的に影響を及ぼす価値観」のことを指します。
例えば
- 個人主義か、チームワーク主義か
- 成果志向か、プロセス志向か
- 上昇志向か、安定志向か
- トップダウンか、ボトムアップか
これらは、二者択一なわけではなく、「完全な個人主義」や「どちらかというと個人主義」といったように、「程度」で捉えることが適切です。
「組織風土」と「組織文化」の違いとしては、「外部からの影響を受けやすいか」「会社の仕組みや、仕事の仕方に関わりやすいか」などがあります。「組織風土」は独自的・固定的な価値観を意味するため、自然発生するもので、外部からの影響を受けにくいです。
「組織文化」は時代を反映しながら、競合他社や市場の影響などを受けて、意図せずとも徐々に変化する可能性があります。
「組織風土」という変わりにくい独自のものがありつつ、その下で「組織文化」が外部の影響も受けながら育まれていく…
というイメージを持つと良いでしょう。
(日本にも「四季」という変わらぬ風土があり、そのもとで平和で豊かな環境においては、お花見や紅葉狩りなどで四季を「味わう文化」が育まれます。しかし戦争下ではそのような文化にはなりませんよね。)
「社風」は、「従業員が感じる組織の雰囲気や考え方」を意味します。
例えば
- 明るい
- 仲が良くて、誰でも気軽に意見が言える
- 上下関係が厳しい
- ピリピリしている
「社風」は「組織風土」と「組織文化」を反映して構成されるものです。また、上述のように、「社風」には良いイメージだけでなく、悪いイメージも含まれます。
組織風土の醸成が企業に及ぼす影響
組織風土は従業員の思考/感情/行動に大きな影響を与えています。そのため、エンゲージメントや労働生産性など、組織における強み/弱みについて考える際にも重要な要素です。
エンゲージメント向上
良い組織風土をつくることにより…
・組織の目指す方向やビジョンを共有し、従業員との共感を紡ぐことができる
・モチベーションの高い人材を育てることができる
・社内の関係性がよくなる
・従業員が組織を好きになる
生産性向上
良い組織風土をつくることにより…
・戦略への納得感が高まり、実行されやすくなる
・コミュニケーションが活性化し、組織内の連携が強まる
・ミスが減り、新たな価値が生まれやすくなる
・従業員の働きやすい職場環境をつくることができる
組織風土を構成する要素
ハード的要素
組織構造や制度など、経営者が積極的に関与することによって大きな変化を生み出すことができる要素をハード的要素と呼びます。
例えば
- 企業理念
- 経営の三ヵ年計画
- コーポレート・ガバナンス
- 人事制度
- 組織構造、人材配置
- 業務内容/プロセス
- 就業規則
- 明文化されたコンプライアンス
- 企業が掲げるコンピテンシーモデル
- マネジメント
- リスク管理機能
ハード面からのアプローチは経営側が主体となって決定し、現場におろすため、強制的に実行することもできます。しかし、エンゲージメントや生産性の向上を狙って組織風土を醸成していくためには、従業員の納得感も高めながら段階的に進めていくことが望ましいです。
(参考)
企業理念:「経営理念(企業理念)浸透コンサルティング」
経営の三ヵ年計画:「経営戦略(中期経営計画)浸透コンサルティング」
人事制度:「人事制度設計・構築の手順や目的を徹底解説」
採用戦略:「採用戦略全体設計サービス」
働き方改革:「働き方改革推進サービス」
マネジメント力強化:「管理職研修の内容と目的は?マネージャー等の管理職に必要な能力」
ソフト的要素
従業員一人ひとりの意識改革や行動改革によって大きな変化を生み出すことができる要素をソフト的要素と呼びます。
例えば
- 共通認識によるコンピテンシーモデル
- 組織内だけで通用するローカルルール
- 責任の所在
- チームワーク
- 人間関係(上下左右の信頼関係や、パワーバランス)
- モチベーション
- エンゲージメント
- 判断基準
- 行動傾向
ソフト面からのアプローチを適切に実行することによって精神的なストレスから解放されやすく、従業員が明るく前向きに日々の業務に打ち込むことができる環境が構築されていきます。
ソフト面からのアプローチの成功は従業員が意識的に取り組むことが大前提となっているため、事前に従業員に対する意識改革をしっかりと行っておく必要があります。
(参考)
エンゲージメント:「エンゲージメントとは? 意味やメリット、向上させる方法について」
モチベーションカンパニーづくり:「【前編】サイバーエージェント×ネクスト “モチベーションカンパニーの創り方” 「事業よりも先に取り組むべきこと」」
社内コミュニケーション:「社内コミュニケーションを効果的にするポイントとは?組織におけるコミュニケーションの必要性から解説!」
組織風土改革が必要とされる背景
事業環境の変化(VUCA時代への突入)
現代は、VUCAの時代と言われています。
Volatility(変動)
Uncertainty(不確実)
Complexity(複雑)
Ambiguity(曖昧)
つまり、それまでの「あまり変化がなくて、確実に先を見通せて、単純で、明快な物事が多い」時代にとって代わり、「変化が激しく、先も見通せず、複雑で、捉えきれない物事が多い」時代といえます。
そこでは、それまでの「上意下達で、素直に戦略や業務を徹底遂行する組織」ではなく「多様性を活かし、変化し続け、従業員一丸となり挑み続ける組織」であることが求められます。
▼VUCAに関する記事はコチラ
VUCA(ブーカ)とは?生き抜く方法と必要なスキルを解説
労働環境の変化(企業と個人の関係変化)
終身雇用の崩壊に伴い、企業と個人の関係性に変化が生じています。それまでは「相互拘束関係の時代」といわれ、一度獲得した人材には手間暇をかける必要がありませんでした。
しかし今は「相互選択関係の時代」となり、一度獲得した人材もリテンションし続ける必要があります。その中での重要な要素の1つとして、個人にとって働き続けたいと思われる企業風土があげられます。
社会的制約の増大(働き方改革、リモートワークの推進)
今、企業に対しては様々な物事への対応が迫られ、複雑化しています。
例えば、ワークライフバランスやハラスメント、情報セキュリティ、コンプライアンス等々…。そういった一種の社会的な制約に対して、現場の理解も高めながら対応し、生産性を高く保つには、組織風土が重要となります。
組織風土醸成の基盤となる企業理念
組織風土の醸成には、会社の普遍的な存在意義となる「企業理念(特にミッション)」を定めることが欠かせません。そして理念は、ただ定めて掲げるだけではなく、その後の運用こそが肝となります。
(参考)理念の策定/浸透のポイント:「経営理念(企業理念)浸透コンサルティング」
組織風土改革を成功させるポイント
「思想」「型」「形」で捉え整理する
まず、現状の組織について、
「思想=どのような価値観や考え方が蔓延っているか」
「型=どのような判断基準や行動原理があるか」
「形=どのような会話や行動が実際に現場でなされているか」
を整理してみて下さい。
次に、「それらをそれぞれ、未来に向けてどのように変えていくべきか」を明らかにします。
そして重要なことは「具体的な行動を促す」ことではなく、「根本にある思想や考え方を習得させる」ことです。現場において1つ1つ行動を確認し、フィードバックし、擦り合わせていては際限がありません。
「型」「形」を一気に変えていくために、「思想」へのアプローチをすることが大切です。
現場の反発心を生まずに共感を募る。
そして、実際に組織や従業員に変化を及ぼしていく際に重要なことがあります。
それが「心の解凍」です。
これは、いわゆるクルト・レヴィンが唱えた態度変容の3ステップの「Unfreeze」にあたります。人間には「現状維持バイアス」というものがあり、一般的に変化を積極的には受け入れません。
そこで、変化に対する懸念払拭や興味喚起を行い、共感を得ます。(Unfreeze)その上で、変化させたい方向性を明示し、(Change)変化し切るための仕組みづくりを行うのです。(Refreeze)
組織内の「臨界点」を超える
組織が変わる際には「臨界点」が存在します。
ここでいう「臨界点」とは、新しいやり方が定着するかどうかを分ける点のことです。会社において、何か新しいこと(思想でも型でも形でも)が浸透するには、まずはその構成員の20~30%の人に受け入れられ、活用される必要があります。
そしてある一定の割合を突破すれば、加速度的に組織全体に広まり、浸透することが分かっています。その境目になる点のことを【臨界点】と呼びます。組織やチームを変えようとするのであれば、やみくもに声を大きくするだけでなく、戦略的に、どこ(誰)にどうアプローチを仕掛けに行くかを設計し、まずは「臨界点を超えること」を目指すことが効果的です。
そして、組織が変わる「臨界点」に達するまで、「しかるべき量」「しかるべき期間」をかけて、根気強く取り組んでいくことが重要です。
組織風土改革の成功事例
■佐竹食品株式会社・株式会社U&Sの理念浸透事例
【企業の概要】
・社名:佐竹食品株式会社・株式会社U&S(以下、佐竹食品)
・設立:1969年1月13日
・事業内容:①総合食料品スーパーマーケット「satake」の運営
②生鮮特化型 業務スーパー「TAKENOKO」の運営
・従業員数:1,700名 (※パート・アルバイト800名含む)
・本社:大阪府吹田市
・ビジョン:「日本一楽しいスーパー」
【課題】
佐竹食品は順調に従業員数と店舗数を伸ばしていました。
150人規模までは、社長から見て顔と名前が一致していましたが、300人、400人と増えていく内に一致しなくなってしまいました。代々大切にしてきたはずの佐竹食品の考え方が薄まってきていました。
弊社組織診断ツールであるモチベーションクラウドで現状を把握したところ、「従業員が理念を期待していない(=従業員が理念を重要視していない)」という結果があらわれました。
そこで、改めて理念を見返し、その浸透を図ることにより、自社にとって理想的な組織風土をつくっていきました。
【取り組み内容】
①ありがとう総会
店舗を丸1日休みにして全従業員を集めた「ありがとう総会」。従業員に理念の「必要性」を伝えることが目的です。
ありがとう総会の中で、なぜこの理念が出来上がったのか、どんな思いが込められているのか、これからはこういうことをしようと思っているんだ、ということを全従業員に伝えて行きました。
1日営業日を止めることによって1億円の売上が減りましたが、その月は過去最高益を出すことができました。理念を伝えていくことで、従業員ひとりひとりの行動に変化があらわれたためでした。
②部門ビジョンの策定
佐竹食品では、部門の理念も策定しました。理念を従業員にとってより身近なものにし、「継続的に」理念を意識してもらうためです。特に、本社というのは経理や人事・総務を担う部署のため、店舗に立って接客することはまずありえません。
そのため、接客を通じてモチベーションが上がる機会もほぼなく、「日本一楽しいスーパー」という全社ビジョンへの貢献感が実感しづらい状況でした。
そこで以下のビジョンを策定しました。
そもそも本社にとってのお客様は誰なのか、根本的なところから考え始め、メンバー全員が納得できるビジョンにするため、できるだけ具体的なイメージが湧くものにしました。
「本社メンバーにとっては、関わる全ての人がお客様である」。そう定義することで、今まで曖昧だったビジョンがぐっと身近にイメージしやすくなりました。議論の末に辿り着いたビジョンが「現場が商売に専念できる状態をつくる」というものでした。
「日本一楽しいスーパー」を実現する現場を支えるために本社は何ができるのか。何をするべきなのか”というイメージが具体的になったことにより、本社にいてもビジョンに貢献できているという実感が持てるように変わりました。
引用元:
リンクアンドモチベーション「佐竹食品・U&S 代表取締役社長 梅原 一嘉氏 “高いエンゲージメントによって業績が上がる”という好循環をつくる」
リンクアンドモチベーション「佐竹食品・U&S社長 梅原一嘉氏 「日本一楽しいスーパー」づくりの哲学【前編】」
リンクアンドモチベーション「佐竹食品・U&S社長 梅原一嘉氏 「日本一楽しいスーパー」づくりの哲学【後編】」