インセンティブ制度とは?メリット・デメリットを成功事例と共にかんたん解説
企業成長のためには、戦略を実行する実行力が鍵を握ります。実行力を左右する要素の1つが従業員のモチベーションですが、モチベーションを高める要素の1つにインセンティブがあります。
今回はインセンティブ制度とはどのような報酬制度なのか、そのメリット・デメリットや成功事例、導入する際の注意点などを解説します。
目次[非表示]
インセンティブ制度とは?
■インセンティブの定義
インセンティブとはモチベーションを高める要素の1つとお伝えしましたが、そもそもモチベーションには2つのタイプがあります。
自分自身の心の中から湧いてくる感情によってモチベーションが発生する「 ドライブ(動因) 」と、外から向けられた報酬などによってモチベーションが発生する「 インセンティブ(誘因) 」です。
このようにインセンティブとは、人のモチベーションに影響を与える、外部からの刺激を指します。
■インセンティブの種類
インセンティブと聞くと金銭面をイメージされる方が多いかと思いますが、実は金銭以外のインセンティブもあります。今回は一般的なインセンティブを5種類、リンクアンドモチベーションで整理をしたインセンティブを5種類紹介します。
前提インセンティブの種類は「マズローの欲求階層説」や「ハーズバーグの二要因理論」と密接に関わってくるため、深く理解をしたい方は、そちらの理論も合わせて学んで頂けると幸いです。
※参考:マズローの欲求階層説・ハーズバーグの二要因理論について
〇一般的なインセンティブの種類
①物質的インセンティブ
「良い暮らしをしたい」といった物質的な欲求を刺激するインセンティブです。例えば、給与・賞与などの経済的報酬が該当します。
②評価的インセンティブ
「評価されたい」といった承認欲求を刺激するインセンティブです。例えば、上司や同僚から認められたり、ほめられたりすることが該当します。
③人的インセンティブ
組織で接する人の人間的魅力や良好な人間関係がもたらすインセンティブです。
「Aさんのために頑張りたい」「Bさんと一緒に仕事がしたい」などと思えることがモチベーションを引き出す要因となります。
④理念的インセンティブ
経営理念や企業ビジョンがもたらすインセンティブです。「意義がある、世の中に貢献する仕事をしている」などと思えることがモチベーションを引き出す要因となります。
⑤自己実現的インセンティブ
自己実現機会の提供がもたらすインセンティブです。「今の仕事は自分が成し遂げたいことに繋がっている」「自分の夢が叶えられている」などと思えることがモチベーションを引き出す要因となります。
〇リンクアンドモチベーションで整理をしているインセンティブの種類
リンクアンドモチベーションでは下記のような整理をしています。上記の整理では抽象度が高いことに加え、自己実現的インセンティブなどは管理職が操作することが難しいため、明瞭性と活用性を鑑みてこのような整理にしています。
弊社ではダニエル・カーネマンの行動経済学をベースとし、人間を「完全合理的な経済人」ではなく「限定合理的な感情人」だと捉えています。その前提に立つと、「金銭報酬」だけでなく「感情報酬」も大切になってきます。
金銭報酬の与え方は金銭を与えることですが、「感情報酬」の与え方は様々です。今回は人間の根本的な4つの欲求を踏まえ、「感情報酬」の与え方を例を交えて解説します。
- 貢献欲求を満たす感情報酬の与え方例
→感謝の言葉をかける - 承認欲求を満たす感情報酬の与え方例
→成果の表彰をする - 親和欲求を満たす感情報酬の与え方例
→良好なチームワークを築く - 成長欲求を満たす感情報酬の与え方例
→知識や技術の向上をサポ―トする
「金銭報酬」に関しては資源に限りがありますが、「感情報酬」に関しては資源に限りがないので、企業経営をする上では「感情報酬」に着目することが大切です。
インセンティブとボーナス・歩合の違い
■ボーナスとの違い
インセンティブとボーナスは「報酬を発生させる条件」と「報酬提供の対象」が異なります。インセンティブは個人の成果に応じた、個人に対する報酬ですが、ボーナスは企業の業績に応じた、従業員全員に対する報酬です。
■歩合との違い
インセンティブと歩合は、個人の成果に応じた、個人に対する報酬という点では共通しています。
違いは、「基本給への影響有無」が異なります。インセンティブ制度は基本給は変わらず、成果が出れば基本給にプラスして成果報酬が発生します。一方、歩合制度は基本給に影響を与えます。成果が出れば基本給が上がり、出なければ基本給が下がります。
企業がインセンティブを導入する意味
企業経営をする上で非常に大切なのが成果(利益)を出すことです。基本的に企業は利益を出さなければ永続的には存在出来ません。
成果は「戦略の出来栄え×組織の実行力」に因数分解ができます。なおIT技術の進化やグロービス化が進んだことで「戦略」での差別化が難しくなっており、「組織の実行力」が成果創出に与える影響が大きくなっています。
組織の実行力は「個力×個力を生かす組織力」に因数分解ができます。要は優秀な個人がいて、それを活かす事ができる組織状態であれば実行力が上がるという事です。
そして個力は京セラの稲盛さんによると「考え方×熱意×能力」に因数分解されます。この熱意に当たるものがモチベーションであり、そのモチベーションを高める一要因がインセンティブです。
長々と書きましたが、要はモチベーションは企業が成果を出すために必要不可欠です。
インセンティブ制度のメリット
①社員のモチベーションを引き出すことが出来る
そもそもインセンティブとはモチベーションを上げる要因です。そのため、インセンティブ制度を活用すれば社員のモチベーションが上がります。
②経営からのメッセージを伝えることが出来る
インセンティブ制度をうまく活用することで、経営からのメッセージを伝えることができます。具体的には重要度によってインセンティブ比率を変えることで、指標の重要度を現場の社員に伝えることができます。
例えば営業部門であれば、短期目標を重視したい時は当月の売上目標の達成度に応じてインセンティブを与え、中長期目標を重視したい時は年間のヨミ総量の達成度に応じてインセンティブを与えることで、経営がどの指標を重要視しているのかが明確にできます。
③従業員間での競争意識を醸成することが出来る
インセンティブ制度を導入すると、当然従業員同士で報酬の差が生まれます。その結果、同一賃金の場合に比べ、従業員間での競争意識の向上が期待できます。またそれは切磋琢磨する風土醸成にも繋がるでしょう。
インセンティブ制度のデメリット
メリットとデメリットは表裏一体の場合が多いので、3つのメリットの各番号と対応してます。関係性も踏まえて理解頂けると幸いです。
①内発的動機が失われるリスクがある
人間は本来、自発的に行動したいという欲求を持っています。内発的動機が目的の場合は、自発的に行動できます。しかし他人からの評価や報酬が目的に代わると、その達成のためにやらされている感覚が生じます。
やらされている感覚が強くなると、自発的に行動したいという本来の欲求が叶わなくなり、次第にやる気を失ってしまいます。
この現象は心理学者のデシとレッパーが行った実験によって観察され、アンダーマイニング効果と呼ばれています。 インセンティブは外発的動機付けのため、アンダーマイニング効果を発生させ、内発的動機が失われるリスクがあります。
▼外発的動機づけ関する記事はこちら
外発的動機付けとは?内発的動機付けと比べたメリットとやる気を高める方法
②不満の醸成や、従業員を間違った方向に導くリスクがある
インセンティブ制度は、評価と報酬が直結している仕組みです。
そのため、評価指標の設定には、細心の注意を払う必要があります。報酬に直接関係してくることなので、従業員からの不満が出やすかったり、事業成長に繋がらない指標を設定してしまうと、他指標への注目が薄れるため、事業に悪影響を及ぼしてしまいます。
③組織力低下をもたらすリスクがある
インセンティブ制度は、個人の成果に応じた、個人に対する報酬制度です。そのため、従業員が自分の成果に固執してしまうリスクがあります。結果として情報やノウハウの共有、若手社員に対する人材育成といった組織全体での底上げ意識が薄れ、組織力低下に繋がるリスクがあります。
インセンティブ制度を導入するにあたっての注意点
注意点はデメリット面を回避するためのポイントですので、3つのデメリットの各番号と対応してます。こちらも関係性を踏まえて理解頂けると幸いです。
①評価や報酬といった外部要因に目が行き過ぎないよう、内発的動機も醸成する
アンダーマイニング効果を起こさせないためとはいえ、企業では社員の頑張りに対して報酬を与えない訳にはいきません。
アンダーマイニング効果への対策としては、物質的な報酬ではなく言語的な報酬(期待や賞賛の言葉)を与える方法が効果的とされています。
言語的な報酬は、さまざまな研究の結果、物質的な報酬に比べて自己決定感や有能感を低下させないことが明らかになっています。
社員の内発的な動機による行動に対して、さらなるモチベーションの維持・向上を図りたい場合は、金銭的な報酬ではなく言語的な報酬を与えると良いでしょう。
②理想のビジネスモデルや組織風土を踏まえて設計する
インセンティブには従業員の行動を一定の方向に導く効果があります。行動対象を定めるという形です。そのため、理想のビジネスモデルや組織風土を踏まえて、「何を目指すのか?」を明確にした状態で、設計をする必要があります。
例えば、個人戦が中心の会社で、チーム目標を評価基準にしても機能しません。また調和やチームワークを重んじている会社で、個人目標を評価基準にすると、大切にしていた組織風土が壊れるリスクがあります。
自社のビジネスモデルや組織風土を踏まえた設計が大切です。
③自社における「組織で戦う重要性」を踏まえて設計する
企業には「個人戦」と「組織戦」の両側面があります。組織運営上この2つのバランスを取ることが大切ですが、過度なインセンティブを導入してしまうと、「個人戦」に目が行き過ぎ、チームワークが崩壊するリスクがあります。
自社において「組織で戦う重要性」を理解した上でインセンティブの設計をしましょう。組織戦が非常に大切な場合はインセンティブを軽度にする必要があります。
インセンティブ制度設計の流れ
①インセンティブ制度導入の目的・目標・指標を決める
インセンティブ制度の目的や目的を実現するための目標、目標の達成度を図るための指標を定めます。
例えば下記のような目的・目標・指標が考えられます。
目的:売上向上
目標:既存顧客へのアップセル
指標:1ヶ月間での既存顧客への提案数50
目的:全員が成長できる組織風土づくり
目標:会社が大切にしている行動指針の徹底
指標:3ヶ月間での上司評価が平均4.0以上
※行動指針の体現度を上司が毎月アンケートで回答
②従業員へのマーケティングを行う
従業員が求めて無いことをインセンティブに設定しても意味がありません。例えば、既に給料を沢山貰っている役職者は、「物質的インセンティブ」より「自己実現的インセンティブ」を求めていたり、逆に若手社員は、「物質的インセンティブ」を求めていたりします。
このように従業員が何を求めているかを明確にすることが大切です。この際、エンゲージメントサーベイといったサーベイで見える化をすることが効果的です。
▼【組織の見える化】に関する記事はこちら
組織を「見える化」「可視化」するメリットとその効果は?
③会社が提供できるインセンティブ要素を洗い出す
インセンティブには5種類あると記載しましたが、その中で会社として提供できる要素を洗い出します。例えば資金が豊富にあれば物質的インセンティブが提供できますが、資金がショートしそうな場合は、物質的インセンティブは提供できないでしょう。
このように自社が提供できるインセンティブが何かを明確化します。
④インセンティブ制度の内容を決める
「従業員が求めているインセンティブ要素」「会社が提供できるインセンティブ要素」を踏まえ、目的達成に向けて最適なインセンティブ制度を定めます。
このようにインセンティブ制度の内容を決める上では様々な要素が複雑に絡み合うため、最適解を導き出すのは非常に難しいです。この複雑性を縮減するために、採用の段階で会社が提供できるものを踏まえて、従業員の絞り込みを行う必要があります。
⑤従業員への説明
インセンティブには記載した通り、様々なデメリットがあります。制度導入時には目的や主旨、内容の周知が正確になされないと、デメリットばかりが表出してしまうリスクがあります。
⑥経緯観察と改善
新しい制度の場合は当然上手くいくかは分かりません。「モチベーションが上がっていない」「モチベーションは上がっているが指標の進捗が芳しくない」といった事態は当然発生します。
自社にとって最適な制度にするために、従業員の声や効果などを観察・分析し、改善を続けることが大切です。
営業職はインセンティブ制度が多い
インセンティブ制度を導入している企業は、業界・職種を問わずにありますが、営業職に多い傾向にあります。営業職は指標が単純明解なことが多く、周囲の納得感が醸成され易いことが理由です。
そのため、営業職にインセンティブ制度を導入したいという目的で本記事を読んで頂いている可能性が相対的に高いと思い、ピックアップして説明します。
ひとえに営業職へのインセンティブといっても下記のように様々な対象があります。
【営業職のインセンティブ対象例】
- 販売数or販売額
- 売上or粗利or営業利益
- アップセル額orクロスセル額
現在の事業戦略を踏まえて、最も大切にするべき指標に対して、インセンティブを設計することが大切です。
インセンティブ制度の導入事例
■リンクアンドモチベーション
弊社リンクアンドモチベーションでも様々なインセンティブ制度を導入しております。本記事では3つのインセンティブ制度を目的も踏まえて紹介します。
①新人賞
3年目までの社員を対象に、新人賞(ROY)という表彰が与えられる評価的インセンティブ制度があります。これは「若手の即戦力化」や「既存社員への刺激」などを目的としてます。
②目標達成インセンティブ
目標達成をした個人や部署を対象に、金銭が与えられる物質的インセンティブ制度があります。「目標達成に拘る組織風土創り」などを目的としてます。
③最重要指標に対するインセンティブ
部署間連携を促進したいタイミングでは、部署間の顧客紹介に応じてインセンティブが発生するなど、重要な指標に関しては、一次的にインセンティブが発生するケースがあります。これは「最重要指標の進捗」を目的にしています。
このようにリンクアンドモチベーションでは毎年運用されているインセンティブと、一次的に運用されるインセンティブを組み合わせながら企業経営をしています。一次的なインセンティブがあるのは、弊社が「運動神経の良い経営」を大切にしているからこそのシステムです。
■メルカリ
メルカリでは、mertip(メルチップ)というインセンティブ制度を活用しています。 mertipは、スタッフ同士でリアルタイムに感謝、賞賛し合うと同時に、インセンティブとして一定額の金額を贈り合えるピアボーナスの仕組みです。
「Go Bold」「All for One」 「Be a Pro」というメルカリが大切にしている行動指針を体現した人を賞賛する仕組みですので、チームワーク向上や行動指針の徹底が目的であると思われます。
記事まとめ
最も理想的なのは、社員全員が内発的動機によって常にモチベーションが100%な状態です。ただ当然、そんな簡単には行きません。そのためインセンティブという外部からの刺激も活用しながらモチベーションを引き出していくことが必要不可欠です。
ただインセンティブと一括りに言っても様々な目的や種類がありますし、デメリットもあります。そんな中で、従業員の状態と会社の状態を踏まえ、最適なインセンティブを設計することは簡単なことではないですが、少しでも本記事が皆様のお役に立っていれば幸いです。
▼モチベーションに関する記事はコチラ
モチベーションとは?定義やモチベーションを維持、向上させる方法