ガバナンスとは?意味やコンプライアンスとの違い、強化する施策、事例を解説
近年、企業の経営における「ガバナンス」の重要性が高まっています。ガバナンスとは、一言で言えば、企業の「経営の質」をどのように確保・向上させるかということに関わる仕組みや原則のことを指します。
多くの企業スキャンダルや経営不祥事が報道される中、企業の持続的な成長やステークホルダーとの信頼関係の構築には、透明で公正な経営が不可欠です。この記事では、ガバナンスの本質と、それが企業経営にどのような影響をもたらすのか、そしてその重要性について詳しく解説します。
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ガバナンスとはどういう意味?
「ガバナンス」とは、組織やシステムの運営や管理の方法、特に意思決定のプロセスやその実施方法に関するフレームワークや構造を指します。ガバナンスは、組織やシステムが持続可能で効果的に機能するためのルールや方針、プロセスを確立し、それを実施・監視するための仕組みを提供します。
ガバナンスと似ている言葉との違い
ガバナンスと似ている言葉として、コンプライアンス、リスクマネジメント、内部監査があります。それぞれ、以下のような違いがあります。
ガバナンス |
組織の運営や管理の全体的なフレームワークや構造。意思決定のプロセスやその実施方法に関するもの。 |
コンプライアンス |
法律、規則、ガイドライン、内部のポリシーや手続きなどに従うこと。法的な問題や罰則を避けるための行動。 |
リスクマネジメント |
潜在的なリスクを特定、評価、監視し、リスクを最小限に抑えるか、受け入れ可能なレベルにするための戦略や手段。 |
内部監査 |
組織内の業務プロセスやリスクマネジメント、コントロール、ガバナンスプロセスの効果性や適切性を独立して評価・検証する活動。 |
ガバナンスとコンプライアンスの違い
ガバナンスは、組織の方向性や戦略、意思決定のプロセス、その実施方法を定義する一方で、コンプライアンスは、特定の法律や規則、標準に従うことを中心にしています。
簡単に言えば、ガバナンスは「組織がどのように動くべきか」を示すものであり、コンプライアンスは「組織がどのように動いてはいけないか」を示すものと考えることができます。
ガバナンスは組織のビジョンやミッションを実現するための方針や構造を提供するのに対し、コンプライアンスはリスクを最小限に抑え、法的な問題や罰則を避けるための行動を促します。
ガバナンスとリスクマネジメントの違い
ガバナンスは、組織の運営や管理の全体的なフレームワークや構造、特に意思決定のプロセスやその実施方法に関するものです。
一方、リスクマネジメントは、特定のリスクや不確実性に焦点を当て、それらを管理・制御するためのプロセスや手段に関するものです。
ガバナンスは組織の方向性や戦略、意思決定のプロセスを定義し、その実施方法を監視するのに対し、リスクマネジメントは組織が達成しようとする目標や業績に対する潜在的な障害や脅威を特定し、それらを適切に管理することに重点を置きます。
ガバナンスの枠組みの中でリスクマネジメントは一つの重要な要素として位置づけられることが多いです。
▼リスクマネジメントについて詳しい解説はこちら:リスクマネジメントの意味とは?企業に必要な理由や具体的な方法を解説
ガバナンスと内部監査の違い
ガバナンスは、組織の運営や管理の全体的なフレームワークや構造、特に意思決定のプロセスやその実施方法に関するものです。
一方、内部監査は、そのガバナンスの枠組みや、組織内の他のプロセスやコントロールが適切に機能しているかを評価・検証する役割を果たします。
ガバナンスは「組織がどのように動くべきか」を示すものであり、内部監査は「組織がその方針やプロセスに従って適切に動いているか」を確認するものと考えることができます。ガバナンスは組織の方向性や戦略を定義するのに対し、内部監査はその実施状況や適切性を監視・評価する役割を持ちます。
コーポレートガバナンス・コードとは
日本のコーポレートガバナンス・コードは、東京証券取引所が制定し、公開企業のコーポレートガバナンスの向上を目的としています。このコードは「適用または説明」の原則に基づいており、企業はコードの各原則を適用するか、適用しない理由を明確に説明することが求められます。
「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味します。
コーポレートガバナンス・コードの改定内容
コーポレートガバナンス・コードには、基本原則として以下のようなものが制定されています。
・株主の権利・平等性の確保
・株主以外のステークホルダーとの適切な協働
・適切な情報開示と透明性の確保
・取締役会等の責務
・株主との対話
コーポレートガバナンス・コードは、2021年に改定されました。新型コロナウイルスの影響や社会環境の変化に対応して、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を、企業が実現することができるような環境を作ることが改定の目的です。
改定内容として、以下のようなものがあります。
・取締役会の機能の発揮
・企業の中核人材における多様性の確保
・サステナビリティを巡る課題への取組み
・上記以外の主な課題
▼コーポレートガバナンス・コードについて詳しい解説はこちら:コーポレートガバナンス・コードとは?5つの基本原則や2021年改訂のポイントについても解説
コーポレートガバナンス・コードが注目されている理由
コーポレートガバナンス・コードが注目されている背景には、以下のような理由が挙げられます。
企業スキャンダルと経営の信頼性
過去に多くの国で大手企業の不正会計や経営不祥事が発覚し、これにより企業経営の信頼性が大きく揺らぎました。これらのスキャンダルは、経営の透明性や監督機能の不足を浮き彫りにし、コーポレートガバナンスの重要性を再認識させる契機となりました。
グローバル化と投資家の要求
グローバル化の進展に伴い、国際的な投資家が企業の経営に対して透明性や責任を求める声が高まっています。多くの投資家は、強固なコーポレートガバナンスを持つ企業を好む傾向があり、これが企業の資金調達や株価に影響を与えることが増えてきました。
持続可能な経営の重要性
環境、社会、ガバナンス(ESG)の観点からの投資が増加する中、企業の持続可能な経営が求められるようになっています。コーポレートガバナンスは、この持続可能な経営を実現するための基盤となる要素です。
ステークホルダーの多様性
現代の企業は、株主だけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会など、多様なステークホルダーとの関係を持っています。これらのステークホルダーとの適切な関係を築くためには、透明で公正な経営が不可欠であり、そのためのガイドラインとしてコーポレートガバナンス・コードが注目されています。
ガバナンスのメリット
企業がガバナンスを整えることで、多くのメリットを得ることができます。ここでは、企業がガバナンスに関する取り組みを行うことで得ることができるメリットについて、以下の代表的なものをご紹介します。
・中長期的な企業価値の向上
・不祥事の防止・安定した経営の実現
・持続的成長・競争力の強化
中長期的な企業価値の向上
ガバナンスの良好な実践は、組織の意思決定プロセスを明確にし、透明性を高めることで、ステークホルダーの信頼を獲得します。
この信頼は、投資家や取引先からの支持を受けるための基盤となり、資金調達のコストを低減したり、良好な取引条件を得ることが可能となります。また、明確な方針や戦略に基づく経営は、組織のリソースを効果的に活用し、中長期的な企業価値を向上させる要因となります。
不祥事の防止・安定した経営の実現
ガバナンスの枠組みは、経営の透明性を確保し、経営陣の行動を監視・評価するメカニズムを提供します。これにより、不正行為や不適切な経営判断のリスクが低減します。
また、組織内のコミュニケーションや情報共有が促進され、リスクに対する共通認識が生まれます。共通認識を持った従業員が増えることで、経営の安定性が高まることが期待されます。
持続的成長・競争力の強化
ガバナンスは、組織のミッションやビジョンを明確にし、それに基づく戦略や方針を策定・実施するためのフレームワークを提供します。これにより、市場の変化や競合環境に迅速に対応し、持続的な成長を実現することが可能となります。
また、ガバナンスの取り組みを通じて、組織のイノベーションや変革が促進され、競争力が強化されることが期待されます。
ガバナンスが効いていないことで起きるリスク
ガバナンスが適切に機能しない場合、企業は多くのリスクに直面します。以下の内容では、その主要なリスクについて詳しく解説します。
・社会的信用を失う
・市場競争に負けやすい
社会的信用を失う
ガバナンスが効果的に機能していない企業は、様々な問題が発生するリスクが高まります。例えば、不正行為や不適切な経営判断が発覚することがあります。これらの問題が公になると、企業は大きなダメージを受ける可能性があります。
企業の社会的信用やブランドイメージが損なわれることで、消費者や取引先、投資家との信頼関係が揺らぎます。信頼関係が損なわれると、ビジネスの継続や成長に影響を及ぼす可能性もあります。したがって、ガバナンスの改善は企業にとって非常に重要です。
市場競争に負けやすい
ガバナンスが不十分な企業は、市場の変化や競合環境に迅速に対応する能力が低下するリスクがあります。経営の透明性や意思決定の速度、イノベーションの推進など、多くの要因で競争力が低下する可能性が考えられます。その結果、市場のシェアを失い、収益性や成長性が低下することが予想されます。
ガバナンスの欠如は企業にとって多くの困難をもたらすだけでなく、機会の喪失も引き起こす可能性があります。例えば、競争の激しい市場では、迅速な意思決定と素早い市場への対応が必要です。しかし、ガバナンスが不十分な企業は、情報の遅延や意思決定の手続きの煩雑さによって、これらの要件を満たすことが難しくなります。
コーポレートガバナンス強化のための方法・施策例
コーポレートガバナンスを強化するための方法・施策には様々なものがあります。ここでは、コーポレートガバナンスを強化するための施策として、以下の4点を紹介します。
・取締役会の多様性の確保
・ステークホルダーとの対話の促進
・内部監査の強化
・継続的な教育・トレーニングの実施
取締役会の多様性の確保
取締役会の多様性を確保することは、異なる視点や経験を取締役会にもたらし、意思決定の質を高めるために非常に重要です。多様な背景や価値観を持つ取締役が存在することによって、さまざまな視点が組織内に取り入れられることが期待できます。
また、異なるバックグラウンドや文化を持つ取締役がいることで、グローバルな市場においてより効果的な意思決定が行われる可能性もあります。さらに、多様な取締役の存在は、企業のイメージやブランド価値を向上させることにも繋がるでしょう。このように、取締役会の多様性は企業の成長と競争力にとって重要な要素となります。
ステークホルダーとの対話の促進
ステークホルダーとの対話は、企業の方針や戦略をより現実的で効果的にするための重要な手段です。定期的な対話を通じて、ステークホルダーの意見や要望を経営に反映させることで、企業はより多くの視点を得ることができます。
さらに、ステークホルダーとの信頼関係の構築は、企業の成功にも大きく寄与します。ステークホルダーとの積極的な関係構築を通じて、企業はより多くの支持を獲得し、市場競争力を高めることができるでしょう。
内部監査の強化
内部監査の体制をより強化し、経営の透明性やコンプライアンスの確保を図ることは、ガバナンスの向上に不可欠です。定期的な監査を行い、その結果を取締役会やステークホルダーに報告するだけでなく、監査報告書を作成し、経営の健全性やリスク管理の効果を評価することも重要です。
さらに、経営陣や従業員に対して監査の目的や手法を説明し、意識を高めることで、組織全体のガバナンス意識を向上させることができます。
継続的な教育・トレーニングの実施
経営陣や従業員に対して、ガバナンスに関する継続的な教育やトレーニングを提供することで、組織全体のガバナンスの意識を高めることができます。特に、最新の法律や規則の変更に対応するための教育は、コンプライアンスの確保に重要です。
経営陣や従業員には、ガバナンスに関する教育やトレーニングを通じて、意識の向上だけでなく、具体的な行動への反映も促されます。組織のガバナンス方針や規定に従い、適切な行動を取ることは、組織の信頼性や信用性を高める上で非常に重要です。
コーポレートガバナンス強化の成功事例
コーポレートガバナンスの強化に取り組んでいる企業は、近年増加しています。ここでは、代表的なコーポーレートガバナンス強化の成功事例についていくつかご紹介します。
大和ハウス工業株式会社
大和ハウス工業株式会社は、2019年11月にガバナンス強化策を公表し、その進捗状況を2020年5月に報告しています。以下はその主な内容です。
ガバナンス強化策の実施状況と今後の取り組み
大和ハウスグループは、国内外のグループ会社を含めたガバナンスに関する4つの基本方針を定め、持続的かつ安定的な成長のための経営基盤を整備しています。
取締役会の実効性の向上やリスク・コンプライアンス対応の最適化を図るとともに、収益力の向上や経営効率の改善に向けた施策を進めています。
基本方針に基づく実施施策
社外取締役比率を3分の1以上に変更し、ガバナンスの透明性を向上しました。
社内取締役の上限年齢を設定し、リスク報告基準の再整備を行いました。
業務執行体制を事業本部制に移行し、リスク・コンプライアンス対応と業務環境の整備を目的とする部門の設置を行いました。
今後の取り組み事項
経営体制及び管理・監督のあり方の再検討、業務執行の機動性及びリスク対応体制の強化、リスク情報の収集と共有の強化、持続性・実行性を支える環境の強化など、さまざまな方針に基づく取り組みが計画されています。
以上の内容から、大和ハウス工業株式会社はガバナンスの強化を真摯に進めており、その取り組みは経営の透明性や効率性の向上を目指しています。
株式会社ダイフク
「株式会社ダイフク」は、社長・CEOの選任・後継者計画において先進的な取り組みを行っている企業として、経済産業大臣賞を受賞しました。以下はその主な内容です。
概要
「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー2021」は、一般社団法人日本取締役協会主催で、経済産業省、金融庁、法務省、東京都、日本取引所グループが後援しています。
この賞は、特に社長・CEOの選任・後継者計画において、独立した指名委員会を中心とした実効的な監督を行い、成果を上げている企業を選定し、その先進的な取り組みを広く発信することを目的としています。
選定理由
ダイフクの現社長は、客観性を重視したプロセスを経て選任されており、就任直後に前社長が取締役から退任し、新任社長主導で執行部のチーム作りを行うなど、リーダーの明確な交代を迅速に図っています。
現社長は、社長の選任プロセスの改善を進めるとともに、事業部の垣根を越えた人事や執行役員候補の人材プールの構築など、将来を見据えた全社的な後継者育成にリーダーシップを発揮しています。
また、誠実さが発揮されており、外部からの指摘に対して迅速に対応・開示を行い、社外取締役との意思疎通や情報共有を行いつつ、中長期的な視点に立ったグローバルな経営を行った結果、高い業績をあげています。
以上の内容から、株式会社ダイフクは、社長・CEOの選任・後継者計画において、先進的な取り組みを行っており、その取り組みは経営の透明性や効率性の向上を目指しています。
花王
花王株式会社は、企業価値の長期的な向上と「豊かな共生世界の実現」というパーパスを達成するため、コーポレート・ガバナンスを経営の重要な課題として位置づけています。以下はその主要な内容です。
基本的な考え方
花王は、多様化・複雑化する変化に適時適切に対応し、社会への貢献と企業価値の持続的な向上を目指すためのガバナンス体制を整備・運用しています。
透明・公正かつ迅速・果断な意思決定のための体制を構築し、説明責任を果たすことを基本としています。
花王のコーポレート・ガバナンスの特長
「豊かな共生世界の実現」を支える基盤として、実効性のあるガバナンス体制を構築しました。また、企業理念「The Kao Way」を根幹に据え、価値観「正道を歩む」を意識したガバナンスを実践しています。
その中で、事業環境や社会の要請に応じて、最適な体制を追求。取締役会の多様性を確保し、監督機能を強化し、社外役員の活用により、高い客観性を維持しています。
社外役員は独立性と専門性を重視して指名し、内部統制の強化を進め、業務の有効性や効率性の向上、財務報告の信頼性確保、法令遵守、資産の保全を目指しています。
花王は、これらの取り組みを通じて、持続的な企業価値の向上とステークホルダーとの信頼関係の構築を目指しています。
組織改革のことならストレッチクラウド
ここまで、ガバナンスについて説明してきました。
ストレッチクラウドでは、管理職として活躍する人材を育てるために、まず、研修を通して事前に役割理解や役割遂行のための観点付与を行います。
その後、360度評価によって周囲からの期待と満足を可視化し、役割遂行に向けた自己課題は何か課題を解決するためのアクションプランは何かを明らかにするというワークショップを継続的に実施します。結果として、結節点人材になるための自立的な成長サイクルを実現しています。
また、管理職になる前のリーダークラスへ導入しておくことで、今後、管理職に登用されていくリーダークラスを、登用直後から管理職として活躍出来る人材としていくために、先んじて、自立的な成長支援サイクルをまわし始めておくということも可能です。
ストレッチクラウドの詳細は、以下のサイト・記事で詳しく解説しています。
▶ストレッチクラウドの詳細はこちら
https://stretch-cloud.lmi.ne.jp/
まとめ
ガバナンスは、企業の経営の透明性や公正性を確保するための重要な要素となります。良好なガバナンスを持つ企業は、ステークホルダーからの信頼を獲得しやすく、持続的な成長や市場での競争力を保持することができます。
逆に、ガバナンスが不十分な企業は、経営不祥事や法的な問題に直面するリスクが高まります。今後、企業の持続的な成長や社会的な信頼を維持するためには、ガバナンスのさらなる強化とその普及が不可欠です。