
適材適所とは?必要性や実践する上でのポイントを解説
「適材適所」は古くからある考え方ですが、近年、組織の人材配置においてあらためて適材適所の重要性が注目されています。今回は、適材適所を実現するために必要なことや、適材適所の人材配置がもたらすメリットなどについて解説していきます。
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適材適所とは?
適材適所という言葉は、一般的に企業における人材配置のシーンで用いられる言葉です。一人ひとりの従業員の能力や適性を把握して、その従業員にふさわしい仕事・部署・ポジションに配置することを意味します。
別の言い方をするなら、企業において人的資源を最適化する手法とも言えるでしょう。適材適所の人材配置ができれば、一人ひとりの従業員のパフォーマンスが最大限に発揮され、組織全体として生産性の向上が期待できます。
■適材適所が求められる理由
適材適所は古くからある考え方ですが、近年、組織の人材配置においてあらためて適材適所の重要性が注目されています。その背景を解説します。
労働力不足
少子高齢化によって労働人口が減少し、どの企業にとっても人材確保が難しい時代になっていますが、そのような環境下でも、企業は競争力を高めていかなければいけません。そのためには、従業員の業務適性を見極め、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる適材適所の人材配置が不可欠です。
働き方の多様化
働き方改革の推進により、企業には多様性のある働き方への対応が求められるようになりました。たとえば、子育てや介護を理由として離職する人は少なくありませんが、子育てや介護と仕事を両立できる会社なら優秀な人材の離職を防止できます。
このように、「子育て・介護と両立しながら働く」「副業しながら働く」「在宅で働く」など、働き方の多様化に対応するためにも適材適所の人材配置が求められるようになっています。
これまでのように、従業員を会社のやり方に合わせるのではなく、個々の従業員が希望する働き方や在りたい姿に合わせて適材適所の人材配置ができれば、企業の競争力強化にもつながるはずです。
ここまで、「適材適所」が必要になった社会的な背景をご紹介しました。ただ、企業の適材適所の実現は簡単なことではありません。現在はVUCA時代という、社会やビジネスなどあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難になっている時代です。
今の会社の事業内容や人数規模に合わせた短期目線での適材適所の実現だけでなく、長期的な会社の競争力を育むための意欲・能力開発も同時に必要です。ここからは、「短期的な適材適所の実現」と「継続的・長期的な適材適所の実現」のために必要なことの両面を紹介していきます。
短期的な視線で考えたときに、個人の得意領域が活かせ、成果創出できるところに配置することは、個人のモチベーションにも繋がり、業績の向上にも寄与します。
適材適所の人材配置をするために必要なこと
適材適所の人材配置をするためには、以下のようなプロセスが必要です。
■業務の内容や課題を洗い出す
適材適所の人材配置をおこなうためには、まず業務の棚卸しをする必要があります。自社の業務をすべて洗い出すとともに、業務課題を抽出します。業務内容や業務課題を可視化することで、どの業務、もしくはどの部署にどのような知識・経験・スキルを持った人材が必要なのかが見えてくるでしょう。
■従業員の能力・スキルを見極める
従業員の能力・スキルを見極めることも不可欠です。その際は、スキルマップを活用するのも良いでしょう。スキルマップとは、従業員が業務を遂行するうえで必要な能力・スキルを有しているかどうかを記録し、可視化するツールです。
一人ひとりの従業員のスキルを客観的に把握することは、適材適所の人材配置だけでなく正当な人事評価にもつながります。
一方、得意な能力やスキルのみで人材配置を検討すると、長期的に見たときに個人がキャリアに対して頭打ちになっていると感じ、成長実感を得られなくなる可能性があります。スキルマップを作成する場合は、現在保有している能力・スキルだけでなく、潜在的な能力・スキルなども記録するようにしましょう。
■従業員の価値観や希望を把握する
従業員が既に保有している能力・スキルだけでなく、従業員が「どんな価値観を持っているのか?」「どんな働き方をしたいのか?」「どんな志向があり、何を実現したいのか?」といったことを把握することも大切です。
従業員の価値観が多様化する現代においては、一人ひとりの従業員と向き合って価値観や希望を把握したうえで、人材配置に反映していかなければいけません。
短期的にはその部署で必要とされる能力やスキルを保有していなくても、配置されることで伸ばしていくことは可能です。将来的な環境・ニーズの変化に対応できる組織にするためにも、本人が獲得したいと思っている能力やスキルを把握し、配置に反映することは大切です。
適材適所の人材配置に役立つ施策
適材適所の人材配置をおこなうためには、以下のような施策が役立ちます。
■適性検査
上述のとおり、適材適所の人材配置を実現するには、従業員の能力や性格を把握することが大前提になります。その際に役立つのが適性検査です。
上司・マネジャーの主観が入り込まないのが適性検査の利点であり、従業員のパーソナリティや志向性、ストレス耐性などを客観的かつ定量的に把握することができます。
■1on1などの面談
従業員のスキルや経験、適性検査の結果など、客観的なデータだけを根拠に人材配置をしても、適材適所を実現するのは難しいでしょう。
定量的な情報だけでなく、定性的な情報も把握したうえで人材配置を検討しなければいけません。そのためには、1on1などの面談が欠かせません。面談を通して、従業員の目標や理想とする働き方、将来の在り方などをヒアリングしましょう。
■従業員情報のデータベース化
従業員数が多いほど、また組織体系が複雑なほど、適材適所の人材配置をするのが難しくなります。このような場合、従業員情報をデータベース化するのがおすすめです。各従業員のスキルや経験、保有資格はもちろん、面談でヒアリングした価値観や要望なども集約することで、短期的にも長期的にも適材適所の人材配置の判断をしやすくなります。
短期的には、モチベーションが下がっている社員を得意な能力を活かせる部署へ配置、業績が下がっている部署にはその領域の得意な社員を配置するといった対応ができます。
長期的には、本人が希望するスキルを向上できる部署へ配置するなど、社員のモチベーションアップだけでなく、会社としても変化へ柔軟に対応できる人材の育成につなげることが可能です。
■ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、期間を決めて従業員の業務内容や職種を変える人事施策のこと。従業員に様々な業務経験を積ませることで人材育成を図る手法として一般的ですが、適材適所の人材配置をおこなう手がかりを得るのにも効果的です。
ジョブローテーションをした従業員は多様な業務経験を通して、自らの適性を再確認したり、自分でも認識していなかった適性を発見したりすることができます。それは、今後市場のニーズに変化が起こり、適応していかなければならない状態になった際の人材配置にも役立ちます。
ジョブローテーションに関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。
※参考: ジョブローテーションとは?メリット・デメリットや効果的な期間を解説
■プロジェクトへのアサイン
本業とは別に、部署横断のプロジェクト等へアサインすることも、適材適所を実現する上では有効です。通常業務では接点のない同僚と関わりながら、普段と全く違うプロジェクトを進める経験は、本人の新しい可能性を見出すことができるきっかけになります。また、本業と異なる環境で仕事をすることは、新しいスキルを獲得して成長する機会にもなります。
アサイン方法は、指名制だと本人も気づいていない能力の発見に繋がり、立候補制だと本人が伸ばしたいと思っているスキルの向上に繋がるので、目的に沿って選択するのがよいでしょう。
■副業・兼業の解禁
働き方改革の一環として、従業員の副業や兼業を認める企業が増えています。副業や兼業をすることで、従業員は本業とは異なる知識・スキルを習得することができます。
また、本業と異なる経験は、自分自身の適性や今後挑戦したいことをより明確に認識できる機会になりますし、仕事観が変わるきっかけにもなります。
副業・兼業の経験を通してひと回り成長した従業員は、新規事業を牽引するリーダーになるなど、自社においても活躍の場を広げることができるでしょう。
適材適所の人材配置がもたらすメリット
適材適所の人材配置をすることで、企業には以下のようなメリットが期待できます。
■適材適所のメリット① 生産性の向上
「好きこそ物の上手なれ」と言うように、自分が好きな業務・得意な業務に携わることができれば、従業員はスピードの面でもクオリティの面でも優れたパフォーマンスを発揮できます。
また、好きな仕事・やりたい仕事を任せてもらえればモチベーションも上がるので、必然的に短期的な生産性や業績の向上につながっていくはずです。
■適材適所のメリット② 離職率の低下
ビジネスパーソンにとって、苦手な仕事や嫌いな仕事を克服するのは重要なことですが、必ずしもうまくいく人ばかりではありません。
長期間、成果が上がらなければ自信を失い、その仕事を続けることが苦痛になり、結果的に離職に至るケースも少なくありません。逆に、適材適所の人材配置ができており、スキルや志向にマッチした仕事が与えられていれば高いモチベーションを保って働くことができるため、離職の防止につながります。
■適材適所のメリット③ コストの削減
適材適所の人材配置ができていないと、従業員はモチベーションを維持するのが難しく、パフォーマンスも低下しがちです。そのために組織全体の生産性が低下して、それを残業や人員補充でカバーすることになれば人件費も増加します。
また、モチベーションを失った従業員が離職してしまえば、欠員補充のための採用コストがかかります。適材適所の人材配置ができていれば、このような人件費・採用コストの無駄を削減することができます。
■適材適所のメリット④市場変化への適応能力の向上
その従業員が得意とする領域に配置するだけでなく、従業員本人が伸ばしたいと思っているスキルや潜在的に伸びる可能性のあるスキルを伸ばせる部署へ配属することは、市場変化への適応能力向上に繋がります。
同じ領域を得意とする人たちばかりが集まっていると、世の中のニーズが変化してきた場合に必ずしも適応できるとは限りません。
しかし、そのスキルを伸ばしたいと思っている従業員や、潜在的に伸ばせる可能性のある従業員が配属されていると、その部署で必要とされるスキルや能力以外の力を持っているため、予期せぬ変化が訪れたときに柔軟に対応できる可能性が高まります。
メリットの①~③は、その領域が得意な従業員を配置することで、生産性や業績向上に繋がるので短期的な大きなメリットですが、見込のある者を配置することは長期的にメリットがあります。
適材適所の人材配置を成功させた企業事例
適材適所の人材配置で成功を収めている企業として有名なのが、ソニーやサイバーエージェント、富士フイルムです。各社の取り組みをご紹介します。
■適材適所の企業事例① ソニー株式会社
ソニーには「自分のキャリアは自分で築く」という考え方が根付いており、幅広いフィールドのなかで従業員が主体的にキャリアを形成できるよう、様々な制度が用意されています。
社内募集制度
新しい挑戦をしたいという個人の意志により自ら手を挙げ、希望する部署やポストに応募できる制度です。所属部署に2年以上在籍している従業員であれば、上司の許可なく自由に応募することが可能。
社内で転職するようなイメージで自分のやりたいことにチャレンジできる、主体的にキャリアを形成するうえで欠かすことができない制度になっています。ソニーの社内募集制度はすでに50年以上も運用されており、これまで7,000名以上の従業員がこの制度を利用して異動しています。
社内フリーエージェント(FA)制度
仕事を通じて高評価を獲得した従業員に対して、プロ野球のようにフリーエージェント権(FA権)が与えられる制度です。
寄せられたポストや職種へのオファーに対して、FA権を行使することによって新しい職場へ異動することができます。この制度は2015年から導入されており、これまで1,000名以上の従業員がFA権を付与されています。
キャリアプラス制度
本来の担当業務を続けながら、業務時間の一部を別の仕事に充てることができる制度です。所属する部署から異動することなく新たな仕事やプロジェクトを経験し、キャリア展開の選択肢を広げたり、他部門で自分の専門性を活かしたりすることが可能です。
Sony CAREER LINK
ソニーグループ内で新たな業務へのチャレンジを希望する従業員と、人材を求めている部署をマッチングする制度です。上長と相談のうえ「Sony CAREER LINK」に登録すると、マッチングの可能性がある部署から面談の依頼が入り、その結果によって異動が決まります。
※参照:ソニーグループポータル | 採用情報 | グループ本社、ゲーム事業、エレクトロニクス事業、半導体事業 | 挑戦を後押しする制度
■適材適所の企業事例② 株式会社サイバーエージェント
サイバーエージェントでは、人材の能力を最大限に引き出し、適材適所を実現するために以下のような施策を導入しています。
人材覚醒会議
役員が戦略的な人事配置についてのみ話し合う場が、人材覚醒会議です。優秀な人材の最適な配置をすることで個人と事業を成長させることを目的としています。
キャリチャレ
現部署での勤続が1年以上になると、希望する他部門またはグループ会社への異動をチャレンジできる社内異動公募制度です。
キャリバー
グループ内の様々な部署の職場環境や人材ニーズを可視化したシステムです。
※参照:適材適所を叶える仕組み | 株式会社サイバーエージェント
■適材適所の企業事例③ 富士フイルム株式会社
富士フイルムは、人事管理のツールとして独自の「総合人事情報システム」を開発し、1982年(昭和57年)1月から稼動を開始しています。総合人事情報システムは、各従業員の過去のキャリアと実績、現在の専門性と保有能力、将来の育成方向、私的身上情報など個人にまつわる情報を把握し、これらの情報を記録したものです。このシステムでは人材情報の更新・検索・作表が容易にできるだけでなく、一人ひとりの従業員がより力を発揮し成長し得る、適材適所を実現するために活用されています。
※参照:富士フイルムのあゆみ 活力ある企業集団づくりと労働条件の向上、労使関係の安定化
まとめ
日本企業には、優秀な人材を手放したくないと自部署で抱え込もうとする傾向があり、それが適材適所の人材配置の障壁になっているケースも少なくありません。
ですが、縦割りが強い組織では、今以上の成長が見込めないのは明らかです。ぜひ、縦割りの壁を取り払い、適材適所を実現することで組織の活性化を図っていきましょう。