PEST分析とは?目的や手順、やり方を事例を用いて解説!
政治、経済、社会、技術の変化は、自社のビジネスに大きな影響を及ぼすことがあります。PEST分析は、この4つの要因から自社を取り巻く外部環境を分析し、変化し続ける環境へ適応していくための経営戦略・事業戦略策定に活かすフレームワークです。
様々なフレームワークは、それぞれの目的ごとに作られているため、MECEなものではありません。企業を取り巻く外部環境を分析するフレームワークはPEST分析以外にも5フォース分析や3C分析などもあります。
今回は、PEST分析の目的や正しいやり方、ポイントや注意点などを中心に、分析のためのフレームワークについて解説していきます。
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PEST分析とは
PEST分析とは、政治的要因(Politics)、経済的要因(Economy)、社会的要因(Society)、技術的要因(Technology)の4つの要因から、自社を取り巻く外部環境を分析するフレームワークです。アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏が提唱したもので、4つの要因の頭文字をとって「PEST分析」と呼ばれています。
外部環境は、自社ではコントロールすることができない「マクロ環境」と、自社の働きかけによってある程度はコントロールできる「ミクロ環境」に分けられます。外部環境のなかでも、マクロ環境を分析するために活用されるのがPEST分析です。
自社のビジネスが、政治、経済、社会、技術の変化によってどのような影響を受けるのかを分析し、それを営業戦略や事業戦略の立案に活かしていきます。
PEST分析の必要性
ビジネスの成否はマクロ環境に依存していると言っても過言ではありません。新型コロナウイルスのように誰もが予想し得ないことも起こりますが、マクロ環境を深く分析することで、ある程度は予測がつく事象もあります。
先行きが不透明な時代だからこそ、PEST分析によって市場に潜むチャンスやリスクを捉えることがより重要になってきます。 チャンスを発見することができれば、競合他社に先んじて新たな事業戦略を推進していくことができます。リスクを把握できれば、先細りの市場から撤退するなどの経営判断をすることもできます。
このように、PEST分析によって環境変化が自社に及ぼす影響を把握できれば、攻めるにせよ守るにせよ先手を打つことができるのです。
PEST分析の項目
■政治的要因(Politics)の分析
政治的要因の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
・政権交代
・法改正(規制の強化・緩和)
・税制改正
・条例改正 など
政治体制の変化や法改正、税制改正などがあると、企業のビジネスに大きな影響が及ぶことがあります。法規制によって市場が縮小することもあれば、規制緩和によって特定の市場が急拡大することもあります。
政治的な動きが自社のビジネスにとって機会になる可能性もあれば、脅威になる可能性もあるため、常に動向を注視しておく必要があります。
■経済的要因(Economy)の分析
経済的要因の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
・経済成長率
・経済状況
・個人消費
・為替相場
・株価
・金利 など
このような経済指標の推移をチェックし、自社にとってのビジネスチャンスやビジネスリスクを捉えていきます。バブル崩壊やリーマンショック、最近で言えば新型コロナウイルスの感染拡大によって様々なビジネスが大きな影響を受けています。
長期スパンで経済の動向を予測することで、チャンスは最大限に活かし、リスクは最小限に抑えなければいけません。
■社会的要因(Society)の分析
社会的要因の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
・人口動態
・流行
・世論
・宗教
・文化・トレンド
・生活習慣・ライフスタイル
・教育
・自然環境 など
日本の場合、少子高齢化は様々なビジネスに変容をもたらしています。また、インターネットやスマートフォンの普及は消費者の価値観やライフスタイル、購買行動を劇的に変えました。
このような社会の変化による影響を機敏に捉え、先を見据えて商品・サービスを開発していかなければ企業の成長は望めないでしょう。
■技術的要因(Technology)の分析
技術的要因の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
・インフラ
・新テクノロジー
・イノベーション
・特許 など
技術革新がビジネスに与えた影響として分かりやすいのが、映像コンテンツです。映像技術の進化により、ビデオテープはDVD、ブルーレイディスクへと移り変わり、インターネット回線の高速化によってオンライン動画配信サービスが拡大しました。
その結果、レンタルビデオという業態は縮小を余儀なくされました。今後も、AIやIoT、5Gなどの技術革新によって、様々なビジネスが大きな影響を受けるはずです。
PEST分析の方法
■4つの要因の情報収集をする
PEST分析の4つの要因である「政治的要因」「経済的要因」「社会的要因」「技術的要因」に関する情報収集をおこないます。その際、情報ソースはできるだけ信頼性の高いものを選ぶべきです。 公的機関や業界団体、研究機関や専門家など、信頼性の高い調査データやレポートを参照するようにしましょう。
■4つの要因を分析する
収集した情報を4つの要因に分類したうえで、自社にどのような影響を与えるのかを分析していきます。その際は、一つひとつの要因を「機会」と「脅威」に振り分けるのがポイントです。
■経営戦略や事業戦略に反映する
4つの要因を機会と脅威に振り分けたら、「脅威を機会に転換できないか?」「機会は脅威になり得ないか?」といったことを考えます。考えられる機会と脅威について、緊急度や重要度から優先順位を付け、経営戦略や事業戦略に反映していきます。
PEST分析をおこなう際のポイント
■目的を明確にする
PEST分析をおこなう際は、まず目的を明確にすることが重要です。PEST分析をおこなうことで、市場の変化を先読みすることができますが、それが最終的な目的ではないはずです。
たとえば、「時代の変化に合わせて経営戦略を見直す」「主力商品だけに依存しないよう新商品を開発する」など、自社の状況を踏まえた目的を設定したうえで、PEST分析に取りかかるようにしましょう。
■機会と脅威に分類する
単にマクロ環境を分析するだけでは、役立つ示唆は得られません。上述したように、政治、経済、社会、技術に分類した要因を一つひとつ分析し、「機会」と「脅威」に振り分けていくことが大切です。
同じ一つの要因でも、事業・ビジネスによっては「機会になるのか、脅威になるのか」が変わってきます。分かりやすい例が、新型コロナウイルスの流行です。コロナは飲食店の需要を大きく低下させましたが、宅配サービスのニーズや調理の機会を増加させました。
自社のビジネスの特性を踏まえたうえで、一つひとつの要因が機会になるのか脅威になるのかを見極めることで、活かすべきチャンスをものにすることができ、回避すべきリスクにもしっかり対処することができるはずです。
PEST分析の注意点
PEST分析をおこなう際は、いくつかの注意点があります。「短期的な戦略策定には向いていない」「時間の要素を考慮する」「情報の信頼性・正確性を担保する」という3つの注意点についてご説明します。
■短期的な戦略策定には向いていない
PEST分析は、政治、経済、社会、技術といった要素に焦点を当てますが、これらの要素は環境変化が比較的ゆっくりと起きるものであり、企業の経営戦略や事業戦略に長期的な影響を及ぼしていきます。そのため、中長期的なビジネス戦略を策定するときには適していますが、短期的な戦略を策定するのにはあまり向いていない分析手法だと言われます。
■時間の要素を考慮する
外部環境は常に変化しており、政治、経済、社会、技術といった要素による影響も時間とともに変わっていきます。そのため、PEST分析をおこなう際は、時間の要素を考慮して将来の予測を組み込んでいく必要があります。また、「一度PEST分析をしたらそれで終わり」ではいけません。長期的な環境変化に対応していくためには、定期的にPEST分析をおこない、ビジネス戦略を更新・再評価することが重要です。
■情報の信頼性・正確性を担保する
PEST分析は、できるだけ信頼性と正確性の高い情報に基づいておこなうことが重要です。公式の報告書、統計データ、業界レポートなど信頼できる情報源を活用し、正確性の高いデータに基づいて分析をおこなうようにしましょう。また、複数の情報源を活用することでバイアスを排除し、個別の意見に偏らないようにすることも重要です。
PEST分析の例
■化粧品業界のPEST分析例
【政治的要因】
- 新型コロナウイルスの流行による外出規制により、化粧をする人が減っている
- 新型コロナウイルスの流行による入国規制により、インバウンド需要が減少している
【経済的要因】
- 外出する機会が減ったことで消費者の購買意欲が低下している
- 外国人観光客による購買が減少している
- 原材料の輸入が滞ったことでリードタイムが長くなっている
【社会的要因】
- マスクの着用が常識になり、口紅やチークの売上が減少している
- マスクをしても落ちにくい化粧品のニーズが高まっている
- オーガニック化粧品のニーズが高まっている
【技術的要因】
- SNS利用者の増加により販売チャネルが多角化している
- オンライン接客を導入する店舗が増えている
- バーチャルメイクアプリの利用者が増えている
■学習塾業界のPEST分析例
【政治的要因】
- 学習指導要領の改訂により、小学校で英語・プログラミングが必修化された
- センター試験が廃止され大学入学共通テストが導入された
- 高等教育の無償化が始まった
【経済的要因】
- 新型コロナウイルスの流行によって景気が悪化している
- 中・低所得者の教育投資額が減少している
- 都市部と地方の教育格差が拡大している
【社会的要因】
- 少子化が進み、令和3年の出生数は過去最小となった
- 浪人率が低下している
- 一律教育より個別教育のニーズが高まっている
【技術的要因】
- eラーニングサービスが多様化している
- オンラインスクールの一般化により、場所を選ばず学べる環境が整ってきた
- CtoCの教育サービスが増加している
■自動車業界のPEST分析例
【政治的要因】
- 排ガス規制により、ディーゼル車が減少している
- 各国政府は環境規制を強化し、EVシフトを推進している
- 環境規制の強化にともない、EV充電ステーションなどインフラへの投資が拡大している
【経済的要因】
- 新型コロナウイルスの流行により世界経済が減速している
- 中国の経済成長が減速している
- NEXT11の成長率が高まっている
【社会的要因】
- 少子高齢化により生産年齢人口が減少している
- 若者の車離れが進んでいる
- SDGsの推進によって環境意識が高まっている
【技術的要因】
- AI・画像認識技術の進化により自動運転技術が向上している
- EVにおける蓄電技術の発展により連続走行距離が伸長している
- バッテリーコストの低減によりEVの低コスト化が進んでいる
PEST分析と他のフレームワークの連携
PEST分析は、あくまでも外部環境をマクロ分析するフレームワークです。PEST分析の結果を最大限に活用するためには、他のフレームワークと連携するのが効果的です。
連携すべきフレームワークとしては、外部環境をミクロ分析して自社の脅威を把握する「5フォース分析」、強み・弱み・機会・脅威という4つの要素から自社を分析する「SWOT分析」、自社・競合・顧客という3つの要素を分析することで自社の成功要因を導き出す「3C分析」などが挙げられます。
■5フォース分析
PEST分析が、マクロ環境を分析するフレームワークであるのに対し、ミクロ環境を分析するフレームワークが5フォース分析です。5フォース分析では、以下の5つの要素(脅威)を分析することで、外部環境が自社のビジネスにどのような影響を及ぼすのかを把握します。
・業界内の競合
業界内の競合他社は、自社のシェアを奪う存在です。競合他社が多いほど価格競争に陥りやすく、利益が減少するリスクも高くなります。
・新規参入者の脅威
業界に新しく参入してくる会社は脅威になり得ます。参入障壁が低い業界ほど、新規参入者の脅威は大きくなります。
・代替品の脅威
デジタルカメラがスマホに取って代わられたり、本が電子書籍に取って代わられたりするように、自社商品の代替品が登場すると大きな脅威になり得ます。
・売り手の交渉力
売り手の交渉力が強くなると高値で仕入れざるを得なくなり、利益が減少するリスクが高くなります。
・買い手の交渉力
買い手の交渉力が強くなると安値で販売せざるを得なくなり、利益が減少するリスクが高くなります。
■SWOT分析
SWOT分析は、自社分析をおこなう際に用いられるフレームワークです。自社を取り巻く環境を内部環境と外部環境に分け、内部環境である「強み」と「弱み」、外部環境である「機会」と「脅威」の4つの視点から自社分析をおこないます。
・強み(Strength)
自社が得意なことや、競合他社に比べて優れている点を分析します。
・弱み(Weakness)
自社が苦手なことや、競合他社に比べて劣っている点を分析します。
・機会(Opportunity)
活用すれば自社のチャンスになるような業界・市場の変化について分析します。
・脅威(Threat)
自社の強みを打ち消したり、自社にとって負担になったりするような業界・市場の変化について分析します。
SWOT分析の結果をもとに実施したいのが「クロスSWOT分析」です。クロスSWOT分析とは、SWOT分析の結果を以下のように組み合わせて、最適な戦略を導き出すフレームワークです。
・強み × 機会
自社の強みをビジネスチャンスに活かすための戦略を立案します。
・強み × 脅威
自社の強みをうまく活用して、脅威を切り抜けるための戦略を立案します。
・弱み × 機会
機会を活かすために、自社の弱みを克服・補強する戦略を立案します。
・弱み × 脅威
自社の弱みを踏まえ、脅威からくる影響を最小限に抑える戦略を立案します。
■3C分析
3C分析は、「顧客・市場」「競合」「自社」の3つの要素を分析するフレームワークです。3つの要素を分析することで、自社が勝つためのKFS(Key Factor for Success/成功要因)を導き出していきます。3C分析は、以下の順番でおこなうのがポイントです。
▼3c分析に関する記事はこちら
3C分析とは?目的や競合と自社の分析方法をご紹介
・顧客・市場(Customer)
まずは、顧客・市場の分析をおこないます。顧客分析では、顧客のニーズや価値観、消費行動や購買行動、消費人口、購買プロセスなどを、市場分析では、市場の規模や成長性などを分析していきます。
・競合(Competitor)
次に、顧客や市場のニーズに対して、競合他社がどのような対応をしているのかを分析します。競合他社の商品・サービスの特徴、販路や顧客数、顧客単価、生産性やリソース、また、業界内でのポジショニングやシェア、影響力や動向などを把握します。
・自社(Company)
最後に、自社についての分析をおこない、KFSを導いていきます。分析項目は、競合分析の項目と同様です。
PEST分析に関する研修等はストレッチクラウドへ
ここまでPEST分析の定義や方法、ポイントについて説明いたしました。
弊社のストレッチクラウドでは、PEST分析を適切に用いて営業戦略や事業戦略の立案に活かすことのできるマネジメント人材を育てるために、 まず、研修を通して事前に役割理解や役割遂行のための観点付与を行います。
その後、360度評価によって周囲からの期待と満足を可視化し、役割遂行に向けた自己課題は何か/課題を解決するためのアクションプランは何かを明らかにするというワークショップを継続的に実施します。 結果として、マネジメント人材になるための自立的な成長サイクルを実現しています。
ストレッチクラウドの詳細は、以下のサイト・記事で詳しく解説しています。
ストレッチクラウドの詳細はこちら
https://stretch-cloud.lmi.ne.jp/service
まとめ
成功している商品・サービスは、世の中の変化やトレンドを敏感に捉えることで、その力を味方にしています。外部環境の変化を的確に把握し、時代の流れに即した経営戦略や事業戦略を立案することが重要ですが、そのためにはPEST分析が不可欠です。PEST分析によって自社のビジネスが政治、経済、社会、技術の変化によってどのような影響を受けるのかを予測し、的確な経営戦略や事業戦略を策定していきましょう。