コーポレートガバナンス・コードとは?5つの基本原則や2021年改訂のポイントについても解説
コーポレートガバナンス・コードは上場企業の行動規範として2015年4月に制定された後、2018年6月と2021年6月に2回の改訂がおこなわれています。今回は、関心が高まっているコーポレートガバナンス・コードについて、制定の背景や4つの特徴、5つの基本原則などを解説していきます。
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コーポレートガバナンス・コードとは?
コーポレートガバナンス・コードは、上場企業がガバナンス強化を図るうえで遵守すべき原則を規定した行動規範のことで、企業とステークホルダーとの望ましい関係性や、取締役会の在るべき姿などが記載されたものです。「株主の権利・平等性の確保」「適切な情報開示と透明性の確保」をはじめとする5つの基本原則を中心に、73の原則から構成されています。
コーポレートガバナンス・コードは2015年3月に金融庁と東京証券取引所が共同で策定し、同年6月に適用が開始されています。対象となっているのは、東京証券取引所第1部と第2部の上場企業です。
コーポレートガバナンスとは?
コーポレートガバナンスは日本語で「企業統治」と言われる考え方で、金融庁・東京証券取引所は「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定をおこなうための仕組み」と定義しています。端的に言うなら、企業経営において公正な判断ができているかどうかを監視する仕組み、ということになるでしょう。
ガバナンスに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
>> ガバナンスの意味とは?目的やメリット・デメリットについて解説!https://solution.lmi.ne.jp/column/c260
コーポレートガバナンス・コード制定の背景
日本におけるコーポレートガバナンスは、2013年6月に政府が公表した「日本再興戦略2013」に端を発していると言われます。その背景には、日本経済の長期にわたる低迷があり、機関投資家や一般の株主が、企業の取り組みを後押しするようなコーポレートガバナンスの見直しが叫ばれるようになりました。
企業の持続的な成長、中長期的な価値向上が求められるようになった理由の一つとして、企業や投資家が短期的な利益を追求したり、投機的に売買をおこなったりするショートターミズム(短期志向)を是正することが挙げられます。企業と投資家が長期にわたって良好な関係を続けるには、お互いが建設的な対話をおこない、投資家が積極的に経営に関与できるようにする行動規範が必要だという気運の高まりから、2014年に「日本版スチュワードシップ・コード」が制定されました。これは、コーポレートガバナンスの向上を目的とした機関投資家の行動規範です。
2015年3月には、コーポレートガバナンス向上のために企業に求められる行動規範として「コーポレートガバナンス・コード」が策定・公表され、同年6月にすべての上場企業に適用されました。その後、2回の改訂を経て現在に至っています。
コーポレートガバナンス・コード:4つの特徴
特徴1.コンプライ・オア・エクスプレインを採用
コーポレートガバナンス・コードは、「コンプライ・オア・エクスプレイン」を採用しています。これは「原則を実施するか、実施しない場合はその理由を説明するか」という二者択一の考え方です。
業種や規模、事業特性や取り巻く環境などによって、その企業に最適なガバナンスは異なるため、一律に特定のガバナンス体制を義務づけることは望ましくありません。だからと言って、義務づけのレベルを低くすると、ガバナンスの実効性を十分に確保できないおそれがあります。このような観点から、各企業が自らの置かれた環境などに照らし、実施(コンプライ)することが適当でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を説明(エクスプレイン)することにより、一部の原則をコンプライしないことも許容されるという「コンプライ・オア・エクスプレイン」を採用したのです。
特徴2.攻めのガバナンス
諸外国は、過度のリスクテイクを回避したり不祥事の防止を図ったりするために、「守り」のガバナンスに主眼が置かれる傾向にあります。一方、コーポレートガバナンス・コードは実効的なコーポレートガバナンスの実現により、経営者の企業家精神の発揮を後押しすることを主眼としています。このような点から、「攻めのガバナンス」の実現を目指すものだと言われています。
特徴3.プリンシプルベース・アプローチを採用
コーポレートガバナンス・コードは、「プリンシプルベース・アプローチ」を採用しています。これは、抽象的で大まかな原則にしたがって各企業が自由にガバナンスに取り組むということです。
逆の考え方である「ルールベース・アプローチ」は、ある行為がルールに沿っているかどうかの明確な基準が示されますが、柔軟性に欠けると言われます。また、「基準に違反していなければ何をしてもいい」といった考えから、制度の「抜け道」を探すような行動を招くリスクもあります。これに対し、プリンシプルベース・アプローチは、抽象的で大まかな原則によって規範が示されるため、企業側は柔軟な解釈をすることができます。そのぶん、原則の趣旨・精神を十分に理解したうえで、自らの活動が原則に則しているかどうかを主体的に判断していくことが求められます。
特徴4.株主との対話の重要性
コーポレートガバナンス・コードでは、コーポレートガバナンスの実現を目指すにあたり、株主との対話が極めて重要であるとしています。上場企業は企業価値向上を図るため、株主総会以外の場でも株主と建設的な対話をすべきであり、経営幹部は対話を通して株主の声に耳を傾けるとともに、株主に経営方針を分かりやすく説明して理解を得る努力をすることが求められています。
コーポレートガバナンス・コード:5つの基本原則
コーポレートガバナンス・コードでは以下のとおり、5つの基本原則が示されています。
基本原則1.株主の権利・平等性の確保
上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。
基本原則2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
基本原則3.適切な情報開示と透明性の確保
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
基本原則4.取締役会等の責務
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことをはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
(後略)
基本原則5.株主との対話
上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。
※参考:コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~
https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000000xbfx-att/code.pdf
【2018年】コーポレートガバナンス・コードの改訂ポイント
2018年のコーポレートガバナンス・コードの改訂内容は多岐にわたります。たとえば、具体的な経営資源の配分を投資家に提示することや、最高経営責任者の選任プロセスを明確にすることが求められています。また、役員報酬の決定については、客観性、透明性のある報酬制度を設計し、その制度にしたがって報酬額を決定することが求められています。その他、人材の多様性を確保するため、女性や外国人を取締役など経営側だけに任用するのではなく、現場にも任用することなどが新たに求められました。
【2021年】コーポレートガバナンス・コードの改訂ポイント
2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂では、「人的資本」に関する情報開示についての項目が追加されました。その他、金融庁が示している改訂のポイントは以下のとおりです。
取締役会の機能発揮
・プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任
・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
企業の中核人材における多様性の確保
・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
・多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
サステナビリティを巡る課題への取り組み
・プライム市場上場企業において、TCFD、またはそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
・サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
上記以外の主な課題
・プライム市場に上場する「子会社」において、独立社外取締役を過半数選任、または利益相反管理のための委員会の設置
・プライム市場上場企業において、議決権電子行使プラットフォーム利用と英文開示の促進
※参考:「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の公表について:フォローアップ会議
https://www.fsa.go.jp/news/r2/singi/20210406.html
組織改革のことならリンクアンドモチベーション
昨今、人の持つ力を最大限に引き出し、中長期的な企業の成長に繋げる「人的資本経営」の重要度は増しています。その背景には、商品市場、労働市場、資本市場における変化があげられます。
商品市場では、産業の「ソフト化」と商品・サービスの「短サイクル化」が進み、商品を生み出し続けるための人材を採用・維持する、労働市場適応の重要性が高まっていること。
労働市場では、「少子化」「流動化」に加え、ワークモチベーションの「多様化」から、人材の維持、モチベーション向上する、労働市場適応の難易度が増していること。
資本市場では、短期の業績だけでなく中長期的の成長が重視され、その指標として「人的資本」の注目度が高まり、開示ルールも整備が進んでいること。
このように「人的資本経営」が一過性のムーブメントではなく、時代の必然として経営の最重要課題に位置づけられる中、「従業員エンゲージメント」に対する企業活動にも市場の注目が集まっています。
「従業員エンゲージメント」とは、企業と従業員の相互理解・相思相愛度合いを表し、会社への愛着や、仕事への情熱の度合いと言い換えることもできます。「従業員エンゲージメント」に注目が集まる理由は、労働生産性や営業利益率などの経営指標との連動性にあります。
リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室との共同研究でも、企業と従業員のエンゲージメント度合いを測る指標である「エンゲージメントスコア」を基にした格付けランクである「エンゲージメント・レーティング」の上昇に合わせて、売上・純利益の伸長率が高くなる傾向が証明されています。
「人的資本経営」の推進度合いを図る指標とも言える「従業員エンゲージメント」。
その向上のポイントは、「診断」→「変革」→「公表」のサイクルを「継続的に」回すことにあります。
「診断」:企業の目指すべき姿(To be)と現在の姿の(As is)のギャップを定量化する
「変革」:As is – To beのギャップを埋めるために改善策を立案し実行する
「公表」:取り組みの進捗や方針を社内外に公表し企業価値向上につなげる
特に「公表」に関して言えば、人的資本に関する情報を測定している企業の割合は64.6%である一方、社外開示までしている企業の割合は15%程度という実態も出ており、まだまだ公表に至っている企業が多いというわけではありません。(出典:リクルート, 人的資本経営と人材マネジメントに関する人事担当調査(2021) 第1弾:「ISO30414」に基づいた主要11領域の調査結果)未開示な企業が多い環境下だからこそ、積極的に公表していく姿勢をいち早く見せることが、資本市場でのアドバンテージにつながると考えられます。さらにスコアの良し悪しに関わらず、継続的に「診断」→「変革」→「公表」のサイクルを重ね、エンゲージメント向上・改善に取り組む企業姿勢を示し続けることは、労働市場でのブランディングにつながることも期待されます。
まとめ
企業は社会とともに発展する存在であり、社会の動きや時代の潮流を無視するような企業は存続し得ません。このことを強く認識し、コーポレートガバナンスを推進していく必要があります。コーポレートガバナンスを強化することで、企業は持続的に利害関係者と良好な関係を築くことができ、社会に信頼される存在になれるはずです。
コーポレートガバナンス・コードに関するよくある質問
Q:コーポレートガバナンス・コードを守らないとどうなるの?
コーポレートガバナンス・コードには法的拘束力はないので、守らなかったとしても罰則などはありません。ただし、違反した企業は、東京証券取引所の判断によって公表措置の対象になることがあります。
Q:コーポレートガバナンス・コードの対象企業は?
コーポレートガバナンス・コードの対象になるのは、東京証券取引所に上場している企業です。このうち、東証第1部と第2部の上場企業はすべての原則を遵守すること、マザーズおよびJASDAQの上場企業は基本原則を遵守することが求められます。