新入社員研修のカリキュラムの作り方は?実際の事例を紹介
新入社員にとって、社会人になって初めての成長機会である新入社員研修期間。 特に入社してからの1年間は、社会人として成長していくために非常に重要な教育期間となります。
では、どのように新入社員研修を行えば、新人の成長を促進させられるのでしょうか。新入社員の教育は正解が無く企業によって最適なカリキュラムが変わってきます。
本ページでは、新人育成を担当する人事・総務部のみなさまに向けて、新入社員研修を成功させるためのカリキュラムの作り方をご紹介します。
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新入社員研修の目的から考える
研修カリキュラムを考える前に、まず前提として新入社員研修を実施する目的を整理しましょう。新入社員研修の目的は言うまでもなく新人の成長ですが、その中でも「短期的な目的」「中長期的な目的」の2つに大きく分かれます。
①短期的な目的:社会人としてのスタートダッシュの実現
新人の早期戦力化を実現するために、新入社員研修は重要な役割を持ちます。
また、新人にとっても早期から成果を出せることは、自身のモチベーションにも繋がるため、離職率の低減という観点でも、企業は新人が成果を出すためのサポートをする必要があると言えます。
具体的なプログラムとしては、ビジネススキルやマナーを習得するための「スキル研修」が有効です。
②中長期的な目的:社会人としての成長確度の向上
新人の中長期的な成長や成果創出を実現するためにも、新入社員研修は重要な役割を持ちます。
入社後数年間に渡って成長をし続けることは簡単なことではなく、新人時代は通用していた社員が、入社3年後以降、若手~中堅社員と呼ばれるようになり、会社の中で求められる役割が変わることで、成長や成果が鈍化してしまうことは多いです。
入社後、短期的に成果を出すことはもちろん重要ですが、企業が考えるべきは、如何に新人が中長期的に成長をし続けられる状態を創れるかです。
具体的なプログラムとしては、新人の仕事への向き合い方、意識を開発するための「スタンス研修」が有効です。コミュニケーション能力や業務スキル、知識がある程度備わっており、入社後短期的に成果を出すことができますが、中長期的に活躍し続けるためには、仕事や課題への向き合いといった要素が重要となります。
上記はどちらか一方では不十分であり、 前者のみだと入社数年後に社員の伸び悩みが発生し、後者のみだと新人の即戦力化が期待できません。企業が新入社員に対して、どのような成長を求めるかによって上記2つの役割をどのようなバランスで取り入れるかは変わります。
企業(人事・総務部)は、新人が早期に成果を出せるように教育サポートをしつつ、社会人としての中長期的に成長をし続けられる土台を整えるためのカリキュラムを作ることが求められます。
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新人教育の担当を任された場合どうすればいい?目的やポイント、失敗例を解説!
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新入社員研修はいつの時期、どれくらいの期間で実施すべき?
新入社員研修は一般的には新人が入社した直後に行われ、研修期間はOFFJT研修と呼ばれる集合研修のみ行う場合は2週間から2,3カ月程度、OJT研修と呼ばれる現場の業務を通した育成まで行う場合は、入社後6ヶ月間、1年間という区切りで新入社員研修を行い教育する企業が多いです。
ただし、新入社員研修の目的や内容、方法によって適切な研修期間は大きく変わるため、自社にとってあるべ研修を行うためには、どれくらいの期間が必要か、から考えることが効果を高めるためには重要です。
▼OFF JTに関する記事はこちら
OFF JT とは?OJTとの違いと研修方法を解説
OJTとは?メリットやデメリット、意味ややり方を徹底解説
カリキュラムの作り方~「誰に」「何を」「どのように」を設計する~
新入社員研修に限らず社内施策の効果を最大化させるためには「誰に」「何を」「どのように」という観点で作成を行う必要があります。
■「誰に」~研修の受講者は誰で、どうなってほしいのか~
具体的な新入社員研修の内容や実施スケジュールを検討する前に、受講者である新入社員に求める役割期待を設定する必要があります。そうすることで、実現するために必要な施策(研修)や教育方法が見えてきます。
役割期待を設定するための方法は大きく2つ存在します。
(1)経営、企業理念から考える
そもそも企業はなぜ新入社員を採用するのでしょうか。その理由は、企業の未来を作るためです。即戦力や短期的な業績向上を目的とするのであれば経験豊富な人材を中途で採用するほうがよっぽど効率が良いはずです。
会社の5年後、10年後を創るための新入社員を育成するためには、会社の未来を考えている経営者や、会社が目指したい姿を表した企業理念といった視点から考える必要があります。
自社が目指したい姿を実現するために必要だと考えられる人材やその人材に必要な要素を抽出して、新入社員研修に取り込むことができます。
(2)現場の状況から考える
①で新入社員採用は会社の未来を創る取り組みであるとお伝えしましたが、一方で現場にとっては短期的に業績を高めるための人材力になりえます。
現場が何の業務に注力し、どういった人材を求めているのか。今現場で活躍している人材がどういったスキルや知識を持ち、どういったスタンスで仕事に取り組んでいるのか。そういった観点で要素を抽出して、新入社員研修に取り組むことができます。
■役割期待を整理するための人材要件フレーム
業務において成果創出に影響する要素は下図のように整理することが可能です。 これを「人材要件フレーム」と呼びます。
新入社員の育成においては後天的獲得可能性が低い(時間が経つほどに獲得可能性が下がる)、「スタンス」と「ポータブルスキル」に着目し、高い基準で育成することがその後すべての業務の基準の引き上げに繋がります。
新入社員に求める役割期待を考える際は、このようなフレームで何が必要のかを整理することでやるべき施策や研修内容が明確になるためおすすめです。
入社後開発できる項目は図の通り大きく「スタンス」「ポータブルスキル」「テクニカルスキル」の3つが存在するため、それぞれの項目でどの程度開発が必要かを定めることが大事です。
■「何を」~期待したい変化を促すために、どんな内容の研修プログラムを実施すべきか~
新入社員に対する役割期待が決まれば、次は実現に向けてどのような内容の研修プログラムを実施するかを検討する必要があります。
▼新入社員研修に関する記事はこちら
新入社員研修の内容はどう決める?実際の項目や形式を紹介
新入社員研修プログラムの3つの種類
新入社員研修のプログラムは「人材要件フレーム」に対応して大きく3つ存在します。 新人の役割期待を実現するために、下記の3つの項目でどのような内容の研修を実施すべきかを検討ことが重要です。
①スタンス開発プログラム
②ポータブルスキル開発プログラム
③テクニカルスキル開発プログラム
①スタンス開発プログラム
仕事や課題に対するに社会人としてあるべき意識や基準を開発するプログラムです。
スタンスは社会人としての成長における基礎になる要素であるため、開発のタイミングは「スキル開発」より前にすることで、育成効率を高めることができます。
プログラム紹介
《プログラム内容》
本プログラムは、おもに新入社員を対象に、できるビジネスパーソンに必要な基本的な観点を理解し、学生から社会人への意識へと切り替え、新入社員のスタートダッシュを実現するプログラムです。
社会に出ることへの不安を感じている新人や、仕事への意欲のみで自身の実力を把握できていない若手に対して、専門知識やスキルを付与するのではなく、まずは前提となる仕事への向き合い方(マインドやスタンス)を強く認識させます。 その結果、社会人として求められる会社や仕事に対する向き合い方を理解し、現状の自分自身の課題を理解し克服する覚悟を醸成します。
事例紹介
②ポータブルスキル開発プログラム
業界、業種と合わずビジネスパーソンとして求められる汎用的な能力の開発です。
「ポータブルスキル」は、対課題力、対自分力、対人力の3つに分かれ、さらにそれぞれの力は8つの力に分解することが可能です。
全ての能力を高めるのではなく、企業が求める役割期待や新人の傾向から優先順位をつけて育成することが大事です。
対課題力強化プログラム紹介
《プログラム内容》
論理的思考に必要な「思考の7つ道具」を身につけ、再現性のある課題解決力を習得するプログラム。
事例紹介
対自分力強化プログラム紹介
セルフコントロール研修
《プログラム内容》
選択理論心理学「変えられるものvs変えられないもの」の思考の切替によるセルフコントロールスキルを習得するプログラム。
事例紹介
対人力強化プログラム紹介
《プログラム内容》
他者や環境が発する目に見える情報だけでなく、裏に潜む意図やメッセージを「読み取る」スキルを習得することでコミュニケーション能力を向上させるプログラムです。
事例紹介
③テクニカルスキル開発プログラム
専門知識や技術を必要とする企業で必須となる能力の開発です。 「プログラミング研修」や「技術者研修」など専門的な知識を付与する研修を行い教育した後、実際に現場での業務の中で習得することが多いです。
■「どのように」~効果を最大化するためにどんな流れ、組み合わせで実施すべきか~
新人に対して、どのような内容の研修プログラムを実施すべきかが決まれば、 いよいよ新入社員研修カリキュラムの作成となります。大事なポイントは「①効果を最大化させるための順番」と「②定着させるための仕組み」です。
①研修効果を最大化させるための順番
多大な時間と費用を投資して行う新入社員研修。せっかく実施するのであれば1つ1つの研修内容で高い効果を発揮したいものです。
「テクニカルスキル」「ポータブルスキル(ビジネススキル)」「スタンス」これらのプログラムをどのように実施するかで効果は大きく変わるため、丁寧に研修実施の順番を考える必要があります。
後天的獲得可能性の考慮
先ほどの「人材要件フレーム」の図にもある通り、能力には新入社員の早期戦力化に向けては、後天的獲得可能性が低い(時間が経つほどに獲得可能性が下がる)ものとそうでないものが存在します。
特に仕事への意識(向き合い方)は一度業務を経験してしまうと、自分視点で基準が出来上がってしまい、その後、どんなアプローチをしたとしても、なかなか変わらないものになってしまうため、「スタンス開発」は入社後、一番初めに取り組むべき研修プログラムであるといえます。
基礎作り→スキル/知識付与
後天的獲得可能性の観点で「スタンス開発」を最初に行うべきだとお伝えしましたが、スキルの開発効率といった観点でも、まずは「スタンス開発」を行うべきだといえます。
「スタンス開発」とは、仕事への向き合い方や仕事の基準を引き上げるための研修プログラムであるため、いわばビジネスパーソンとしての基礎作りとなり、その後のスキル研修への向き合い方、意識が変わります。
結果として、スキル研修で得られる効果や定着率も大きく変わるため、まずはスタンスを開発すべきだといえます。
また、新人時代に適切なスタンスを獲得できるか否かで、数年後に出せる成果も変わってくるという研究結果もあります。
出典:「新入社員時のビジネススタンスと成果の関係」に関する研究結果を公開 ~新入社員時のスタンス形成は、その後の成果に好影響を与える~
②スタンス/スキルを定着をさせるための仕組み
入社時にどれだけ力を入れてスタンスやスキル研修の内容にこだわったとしてもその後放置してしまうと、基本的には定着せずに元に戻ってしまいます。
人には変化を拒む「バイアス※」というものが存在するため、現場に配属され業務が忙しくなるにつれてどうしても易きに流れてしまい、変化への意識が薄れてしまいます。それを防ぐためには、定期的に自身を見つめる機会を持つことが重要です。
※バイアスとは
主に心理学の分野で使われることが多い、 人が知らず知らずのうちに持ってしまう偏った考え方や見方のこと
リンクアンドモチベーションでは、人の変化を妨げるバイアスとして以下の4つを定義しています。
バイアスを取り除くために、定期的に自身を見つめる機会を持つ具体的な方法としては「OJT/メンター制度」と「フォローアップ研修」が有効です。
これらの方法をカリキュラムに盛り込むことで、スタンス/スキルの定着を促進することができます。
方法①OJT/メンター制度
「バイアス」は自分自身では気づくことが難しいため、如何に客観的な視点を持てるかが重要です。また、自身の思考や行動を客観的に評価することには限界があるためOJT/メンター制度の中で、トレーナーが内省支援を行ってあげることが大事です。
▼メンターに関する記事はこちら
メンターとは?メンターの意味や役割、制度のポイントを解説
《プログラム内容》
OJTトレーナー・メンターとして正しい役割認識を持つと同時に、「支援行動」「動機形成」などの具体的なスキルを習得します。
方法②フォローアップ研修
フォローアップ研修とは、入社後一通りの研修を終えて、一定期間を終えてから実施する研修です。主な役割は研修で習得したスタンス/スキルの実践度合いの振り返りと、改善に向けたアクションの設定です。
フォローアップ研修は、OJT/メンター制度と同様に、自身を客観視することができるため、新入社員ひとりひとりが目指したい姿と現状のギャップに気づくことで、スキル/スタンスの定着を促進できます。
《プログラム内容》
本プログラムは、主に新入社員を対象に、社会人として求められる会社や仕事への向き合い方の基本的な観点から、自分自身を振り返り、自分の目指す姿~課題設定を定めるプログラムです。
プログラムの中では、グループワークを通して自分自身への認識と周りが見ている自分の姿との差異を知り、そこからビジネスパーソンとして目指す姿と、その実現に向けてのアクションプランを考えていきます。更には現場での実践に向けて、それを同じ参加者と共有することで、取り組みへのコミットを高めます。
最適な新入社員研修カリキュラムとは?
自社にとって最適な新入社員研修プログラムを作るためには 「誰に」「何を」「どのように」を設計することが大事だとお伝えしました。 改めてどのような新入社員研修カリキュラムが最適と言えるのでしょうか。
カリキュラムの良し悪しは、大きく下記2点で判断することができます。 一度、自社の新入社員研修を見直してみましょう。
- そのカリキュラムで新人に必要なスタンス/スキルが身につくか
- そのカリキュラムでスタンス/スキルが定着するか
新入社員研修カリキュラムの教育方法
新入社員研修のカリキュラムは多岐にわたるため、自社の業種や新人の職種、配属先などに応じて目的に合った内容に組み立てることが大切です。
新入社員研修の教育手法には以下の7つがあります。
OFF-JT: 通常の業務を離れて行う研修で、ビジネスマナーやOAスキルなどの基礎的なスキルの習得が目的です。
OJT: 実務を通じて行う研修で、OFF-JTの後に実施するのが効果的です。研修でインプットしたことをアウトプットし、スキルを定着させることが目的です。
ロールプレイ: 営業役やお客様役などの役割に応じた演技をしながら、実践的に学ぶことが目的です。名刺交換や電話応対などのスキルの習得に適しています。
ケーススタディ: 実際の業務で起こり得るトラブルなどの対処法や解決策を考えることが目的です。ロールプレイと同時に行われることもあります。
レクリエーション: 簡単なゲームを用いてコミュニケーションをとるなど、新入社員同士の関係構築やチームビルディングが目的です。
グループワーク: 新入社員がグループ単位で課題に取り組む活動で、チームワークやロジカルシンキング、課題解決能力を身につけることが目的です。
フォローアップ研修: 新入社員研修後に行い、研修の定着率を高めることが目的です。新入社員が抱える不安やストレスをフォローし、モチベーション向上にも寄与します。
新入社員研修のカリキュラム作成には、目標と合格基準の設定、社内へのヒアリング調査、実施期間の設定、カリキュラム作り・内容の決定などが必要です。新入社員が研修を通して早く会社に馴染み、戦力となっていけるようにサポートすることが重要です。
新入社員研修 カリキュラム事例ご紹介
自社の新入社員研修を作る際には、社内に情報が少ない場合、他社のカリキュラム事例を参考にすることも有効です。ここではリンクアンドモチベーションを含む3社の新入社員研修カリキュラムをご共有します。
【事例】新入社員研修カリキュラム:A社
スタンス→ポータブルスキルの順番での開発を目的としてカリキュラムを設計。
また、定期的な現状振り返りを内容とした360度評価研修プログラムを定期的に実施。
【事例】新入社員研修カリキュラム:B社
スタンス→ポータブルスキルの順番での開発を目的としてカリキュラムを設計。
また、日々の内省支援を目的として、OJTメンター制度を導入。 新人全員分の振り返り日報を確認してフィードバックとケアを実施。
【事例】新入社員研修カリキュラム:リンクアンドモチベーション
「スタンス開発」を注力施策として、カリキュラムを設計。
スタンスの定着促進のために、360度評価研修による振り返り、 上司、OJT担当からの定常的にスタンスへのフィードバックを実施。
よくある質問
新入社員研修の目的は?
新入社員研修の目的は「社会人としてのスタートダッシュの実現」と「社会人としての成長確度の向上」にあります。
前者はどちらかというと短期的な目的を示し、会社にとっては新人が早期戦力化することでできるだけ早く事業成果につなげたい意図があります。
後者はどちらかというと中長期な目的を示します。入社後数年間に渡って成長をし続けることは簡単なことではなく、新人時代は通用していた社員が、入社3年後以降、若手~中堅社員と呼ばれるようになり、会社の中で求められる役割が変わることで、成長や成果が鈍化してしまうことは多いです。入社後、短期的に成果を出すことはもちろん重要ですが、企業が考えるべきは、如何に新人が中長期的に成長をし続けられる状態を創れるかです。
効果的な新入社員研修とは?
ビジネススキルやマナーを習得するための「スキル研修」と、新人の仕事への向き合い方、意識を開発するための「スタンス研修」は、どちらか一方では不十分であり、 前者のみだと入社数年後に社員の伸び悩みが発生し、後者のみだと新人の即戦力化が期待できません。企業が新入社員に対して、どのような成長を求めるかによって上記2つの役割をどのようなバランスで取り入れるかを設計することが重要となります。